しかし日常が足りない!

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通い慣れた道を歩く。久しぶりに制服に袖を通したせいか、体に合っていないような気がしてむず痒い。それに登校時間と丸被りしたから、周りからの視線がいつも以上に突き刺さっているような気がする。この前までは隼人がこの視線をほとんど受けてくれていたからオレは目立たなかったのに、一人になった途端この有様。やっぱり異質なんだろうな、この黒髪は。 極力誰とも視線を合わせないように目を伏せて歩く。いや、こんなことしなくてもオレに話しかけてくる奴なんていないんだった。キンタも、逢坂も金剛寺も、ここにはいない。みんなオレを逃がすために守ってくれた。その重みを、今になって再認識させられる。 少しだけ早歩きになって、校舎に吸い寄せられていく。 学園に着くころには視線は気にならなくなった、というより人が多すぎて紛れ込めている。もしかしたらオレを見ている人も中にはいるかもしれないけど、それに気が付くほど敏感じゃない。 教室を目指す生徒の波に逆らって歩いていると、次第にすれ違う数は減っていって、いつしか一人になっていた。周りに誰もいないことを確認して、そこでようやく一息ついた。 全部知っている景色なのに、妙に居心地が悪い。おそらく後ろめたさを感じているせいなのかもしれない。オレだけがこうして日常の中にいることを、オレは後ろめたしく思っている。周りが平和であればあるほど、その感覚は強くなる。 一度深呼吸をした。そんなことを考えて一喜一憂している場合じゃない。やるべきことはずっと前から決まっていて、その覚悟も昨日決めた。前だけを向こう。後悔なら、全部終わった後でいくらでもできる。 気が付けば保健室の前にいた。この先には隼人と遥がいる。取り繕う必要がないからさっきまで感じていた変な緊張も解けていく。ここでゆっくりして、残された時間で何ができるかゆっくり考えよう。 そう思って、保健室のドアを開けた。
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