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目の前に門があり、四人の衛士が立っていた。塀でぐるりと囲まれたそこから先は益獣を扱っている区画だった。
そこに入るには許可がいる。資格と言ってもいい。入れるのは妖魔妖獣を捕えてくる操獣師や護衛、巫術師などだ。萩明は入口で身分証を見せて敷地に入った。
護符を貼った特別な檻に入れられているのはまだ調教していない妖獣だ。荒海から獲ってきたばかりのそれは、檻には護符が貼られ巫術をかけて暴れないようにしてある。
危険な荒海で獲ってきたものを一から調教するのは大変だが、自分で調教した益獣は主人によく仕える。だから自ら調教する気概のある者はこの檻に入った妖獣を購入する。
もちろん荒海まで行って自力で捕えて調教すればより従順でよく懐くのだが、そこまでできる者はそれほど多くない。
檻には入れておらず、縄で繋いであるものは飛翔能力がないものやすでに調教済の益獣だ。人に馴れているから飼いやすいが、それだけに人を見る目もあり、相手の力量を見て主人を侮ることもある。
侮られたらそれは命に関わる事態を招くので、益獣を買うには自分の技量をきちんと見定めておかねばならない。己の能力以上の益獣を買えば、その日のうちに食い殺されることになるのだ。
「哥さん、何をお探しだい?」
大柄な操獣師が声を掛けてきた。
「いや、特に何というわけでもないが、どんな益獣がいるか見にきた」
益獣の市は滅多にないからそういう者も少なくない。男は気を悪くしたふうもなく話しかけてくる。
「そうかい? 益獣は持つと便利だよ。ほら、こいつはどうだい?」
檻の一つを男は指した。中には人に似た顔をした馬のような妖獣がいた。人妖だった。蛇の尾を持ち、翼があり、見た目にはかなり恐ろしげだ。
「こんな外見だがこれは意外にも人に懐くんだ。馴れればかわいいもんだよ」「孰湖(じゅくこ)か?」
荒海で保ビャオが連れているのを見たことがあった。
「ああ、よく知ってるな。こいつはまだ若いから気性も荒いが哥さんは体格がいいからいけそうだ。飛翔能力も高いし、移動も楽だよ」
「空を飛ぶほど急(せ)いた生活はしてないな」
「じゃあ、こいつはどうだい?」
檻には入れずに木につないである駮(はく)を男は勧める。体が白く尾は黒い馬のようだが、頭には一本角があり、虎のような牙と爪を持っている。
「駮は攻撃能力が高いんだ。これはよく馴らしてあるから護衛が連れ歩くには最適だよ」
「調教済か。案外大人しそうだな」
「ああ。きっと役に立つよ」
益獣を連れた護衛はそう多くはない。
妖魔に対して益獣はかなり有効だから、商隊護衛には歓迎されるが、その分泊まる宿や餌に気を配らないといけなくなる。益獣用のきちんとした厩舎のある宿はそれなりに値が張る。益獣を持つということは実入りも大きいが出費もかさむ。
購入の費用も高額だが、それ以上に維持費が必要なのだ。それだけの稼ぎがある護衛が持つものという認識が護衛側にもあって、背伸びして購うものではない。
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