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その小さな後ろ姿を見送った途端、周囲の者は一斉に口を開いて辺りはまた騒ぎになった。
「おい、大丈夫かい?」
「まさか、死んじゃいねえよな?」
男は気絶しているだけだった。
「誰か、水持って来てくれ」
仲間が抱き起して介抱している。
「見えたか、さっきの」
「いや、何が起きたかわからねえ」
「あんな華奢な娘さんがすごいわねえ」
「きれいな子だったね。ここらじゃ見かけない娘だけど」
「どっから来たか知らねえが、すごい技をもってるもんだなあ」
「あれだけ大きな男を一撃だぜ」
「どんな技だったんだ?」
「あんな強いなんてまさか悪鬼だったんじゃ…」
「おいおい、よせよ」
萩明には見えていた。
男が腕を振り上げて掴みかかろうとした瞬間、娘は背をかがめ渾身の足払いを男の脛に入れたのだ。それだけなら武術を嗜む者は驚かないが、娘は同時に手刀を男の鳩尾に叩き込んでいた。
男を昏倒させたのは、その手刀のほうだろう。
「やるな、あの娘」
隣で見物していた魏領が面白そうに笑っていた。彼にも見えていたのだ。「道士の型を取っていたな」
「ああ。修業の経験があるんだろう」
一体どういう娘なんだろう。
妖魔市で化蛇を探させて招魂儀式を行う物騒な主人を持っていて、武術に秀でて男顔負けの口を利く。おまけに道観で修業経験があるらしい。
なかなか面白い娘だと思ったが、その時にはまだこの娘と関わることになるとは露ほども思っていなかった。
試し読み完
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