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「何も見てはいません。というか、僕は何も覚えちゃいない」
真実それらしく語るにはほんの少し
馬鹿みたいな微笑みと無能なふりが必要だった。
「ですってよ。それにもし鈴蘭の毒を食べたりしたら、私は知らないけれど大変なことになるそうよ」
「そのようですね、お姉様」
女狐め——いけしゃあしゃあと鎌をかけてきた。
「あんたが鈴蘭にも負けない猛毒を持っていたなら話は別だけれど」
「そんなわけないじゃないですか、お姉様」
「だったら——」
言いかけたところで。
「でももしも」
僕は一回り大きな声で言葉を重ねる。
「でももしも誰かが僕の知らないうちに毒を食べさせるようなことをしていたのなら——」
必要以上に場が静まって
僕は急に舞台俳優にでもなったみたいな気になる。
スポットライトを浴びて
そして言い放つんだ。
「どんな手を使っても僕はその人間を許しませんね」
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