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若き当主が目で合図するや。
気の利く老執事はすぐに悟って一礼し退散した。
「僕が詫びるべきでしょうか……」
沈黙を破るのは怖かった。
それでも3人——無言のまま顔を突き合わせているのはもっと怖い。
「何を詫びる?はきっり言ってみろ」
感情の欠片も見せない声で征司が言った。
「だから……僕がお2人に……」
「いいよ。謝らなくていい」
九条さんは言わせなかった。
その代わり言葉より重い溜息を吐いて視線を征司に移した。
「僕らはそれぞれしたいようにやった。現実から目を背ければ幸福になれると思った。征司くん――君はどうだ?」
僕にはなんら感情のない横顔を見せたまま
冷たく傲慢な瞳は見下す様に義兄に向けられる。
「何が幸福だ?これに関われば不幸になるのは目に見えているのに」
征司の言葉はいつだって矢のように僕の心を射抜き容赦なくえぐる。
「彼と出会ってから僕はそれを愛と呼ぶよ」
九条さんはそんな僕の心を守り薬を塗り込む。
そして征司は——。
「それじゃこれからも交互に騙されたふりをするか?俺はご免だ――」
「お兄様っ……!」
「終わりだ。出てけ——おまえていて幸福だという腑抜けとこの家を出て行け」
再び容赦なくえぐるのだ。
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