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九月も終わりに近づいているというのに、夏を彷彿とさせる蒸し暑い日々が続いていた。
扉を開けば、そこは夏と同じむわっとした空気が広がっており、じわりじわりと僕という存在を照らしていく。
この世界で僕達は――、否、僕はまだ夏に置いて行かれてしまっている。
僕は目の前に広がる景色が信じられなかった。この季節外れの暑さに頭でもやられてしまったのだろうか。それとも、もう真昼間だというのにこんな時間に起きてしまったから、白昼夢でも見ているのだろうか。
家の扉を開けてから数秒も経っていないというのに、体中から滝の如く水分が流れ出す。この暑さのせいか、頭が朦朧として世界が不確かになってくる。まるで僕という存在が、汗と共に現実から外へ外へと追い出されていくようだ。
目の前の夏を感じさせる景色から、意識を反らすように僕は目を閉じる。けれど、僕を刺激するのは、蝉の鳴き声、照り返す太陽、口の中に広がる汗の塩っぽさ――、まさに夏という存在そのものが、より五感に鋭く介入して来た。
けれど、それ以上に僕に夏を追随させるもの。
それは――、
「元気? 良かったら遊びに行かない?」
この夏この町から去ったはずの君が、僕の目の前にいることだった。
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