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僕には幼稚園から高校二年の一学期までずっと同じクラスだった幼馴染がいた。
その幼馴染の名前は――、羽川奈緒。
奈緒の母親と僕の母親は何でも小学生の頃からの腐れ縁で、僕らを生んでからもその仲は変わらなかった。母親達は、僕と奈緒を連れて、しょっちゅうお互いの家でお茶をしたり、互いに車を出し合って隣町の大型ショッピングモールにも出かけたりした。
僕と奈緒は、兄弟のように長い時間を共に過ごしたのだ。だから、性別の違いはあったけれど、僕と奈緒が自然と仲が良くなるのは当然のことだった。たぶん、一番仲のいい人物は誰かと言われたら、僕は羽川奈緒の名前を上げるだろう。
しかし、奈緒はこの夏、何も言わずに僕の前から突然去って行った。
奈緒が去ったのは、父親の転勤が理由だったそうだ。
奈緒のおじさんは、この田舎町から離れ、数百キロも離れた東京で仕事をするようになった。そのことから、奈緒も奈緒のおばさんも東京に行かなければならなくなった。向こうで家が見つかるまでは、東京に住む奈緒のおじさんの妹――つまり奈緒にとっては叔母の家に住むと聞いた。
奈緒の引っ越しを知らなかった僕は、母さんに初めて聞いた時、天地がひっくり返るほどショックを受けた。その現実が信じられず、僕は無我夢中に奈緒の家まで走っていた。しかし、そこは母親の言う通り、あんなにも馴れ親しんだ温もりは既になく、もぬけの殻となっていた。
奈緒が本当に僕の前からいなくなったというショックを抱えながら、気付かぬうちに暦の上では夏が終わりを迎えてしまった。季節も移ろおうとしているのに、僕の心は夏に置かれたままだ。
もう奈緒に会うことは出来ない。そう思っていた。
なのに――。
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