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一方で、屋上。そこは学園では立ち入り禁止になっているはずの場所で、そこにラギたちを襲った男が顔を歪めて立っていた。そして、その隣にもう一人、女性が面白おかしそうに男の姿を眺めていた。
「おや、どうしたのかしら、黒獅子くん?」
「いや、まさかガードしただけで右手首がやられるとは思っていなかった」
黒獅子と呼ばれた男は、素直に負けを認める。あの竜巻は、単純に屋上に逃げるための方法でしかなかった。ただ、おそらくあの白髪の少年は俺の右手首の負傷を知って、追ってこなかったのだろう。そう考えると、黒獅子は情けをかけられたようで、悔しい気持ちになった。
「あら、潔いのね。もっとプライドを持って、言い訳をしてもよろしくてよ?」
「からかうな。あの新入生は強い」
「よかったじゃない。強いのは、この国にとって有益よ?」
「お前は、そうやって……」
「お前なんて呼ばないでくれるかしら? 私にも立派な名前があってよ?」
「はあ、ルナ、そのスタンスでずっといれば、必ず後悔するぞ」
「後悔するほど、私の信念はやわじゃなくってよ? 相手が誰であろうと、負ける気はしないわ」
黒獅子はそれ以上、何も言わない。その代わり、ルナという女性が話を続ける。
「それにしても、黒獅子って名前のわりに、ちょっとこじゃれたワルっぽさを出しているのは、見ていて滑稽ね? もっと、獅子っぽさを出すために、髪を短くして髭でも生やしたらよろしくてよ?」
「余計なお世話だ。誰が好き好んで、『黒獅子』のあだ名なんて」
「黒獅子って私は好きよ? どうして、嫌なのか理解に苦しむわ」
「勝手に言ってろ」
「そうするわ」
その二人の会話は、誰にも聞かれることなく、ひっそりと終わる。
二人はそれぞれ別々の信念を持ち、この学園で生活している。それは、別に彼らだけに限ったことではない。
むしろ、この学園の全生徒が各々の信念を持ち、己を高め、将来の理想を叶えようと必死にもがく。
その信念と信念がぶつかることは、決して悪いことじゃない。
それが、この王立神聖学園アステルだった。
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