入学と、衝突と、友達と

2/11
29人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
「おおー、これが王立神聖学園アステル!」 一人の少年が学園の構内に入り、驚きの声を上げていた。短い白髪と好奇心旺盛な瞳は周りから浮いているようだが、彼は一向に気付く様子はない。豪奢(ごうしゃ)な造りの内装に興味津々で、彼はあっち行ったりこっち行ったりしていた。 ここは、王国の貴族や富豪、名家など優れた血縁が主に入学する王立神聖学園アステル。もちろん、成績が優秀であれば、血縁に関係なく入学することも可能であるが、そういった者はごく少数になる。 礼儀作法を叩き込まれる裕福な育ちからすると、白髪の少年が貴族などの優れた血縁者ではないことはすぐにわかってしまうわけで。 つまり、白髪の少年が、悪意の標的にされるのは、時間の問題となる。 「おい、なんでこんなところに、貧民が紛れ込んでんだ?」 と、さっそく忌々しげな声が響いた。 白髪の少年は、その言葉が自分に向けられたものだと感じ、声のした方を振り向く。 そこには、耳にピアスをした男子がいて、明らかに白髪の少年を不愉快そうに睨んでいた。さらに、右に太っちょ、左に小柄マッシュルームヘアが特徴の男子がいて、彼らも白髪の少年に対して、威圧する態度でこちらを見ていた。 「ん? もしかして、俺と同じ新入生なのか?」 白髪の少年は、からまれたという自覚はなかった。むしろ、声をかけてもらえたことを嬉しいと感じて、無邪気な笑顔を振りまきながら彼らに近づいていく。それが、かえって不良たちの反感を買ってしまう。 「てめぇ、なめてんのか?」 「いや、せっかくだし友達になろうかなと」 そう言って、白髪の少年は握手を求める。差し出した手を、彼らは無視する。握手してくれないから、白髪の少年はおかしいなと思って首を傾げて、彼らを見る。 彼らにとって、それがトリガーとなるには十分過ぎるくらいだった。 「やれ」 たった一言。ピアスの不良がそう言い放った瞬間、太っちょとマッシュルームヘアが素早く白髪の少年を挟む形で移動する。 そして、二人は白髪の少年に向かって、手の平を向けた。 「「死ねっ」」 至近距離、同時、火炎弾。 ドンッ! 爆音とともに、衝撃波が周囲を巻き込む。悲鳴が上がった。 「あっぶねぇ」 白髪の少年は、驚いた様子で無傷にその場に立っていた。代わりに、二人の不良が爆炎の餌食になって、倒れている。 「避けちゃったから、同士討ちになっちまったなー」 白髪の少年は頭を()いて困った顔をする。 しかし、その一瞬の隙で、彼の(ふところ)にピアスの不良が入り込んできた。 「うおっ」 白髪の少年はまた驚いて、後ろにバランスを崩したように仰け反った。そこを逃さず、ピアスの不良は五本の指を揃えてピンと伸ばした手を、白髪の少年の喉元に突き刺そうとする。 そして、 「やめなさい!」 と、女性の声が響き、ピアスの不良の動きが止まった。 白髪の少年の喉元ギリギリに殺意の籠った指先があった。 「ちっ」 ピアスの不良は、とてつもなく不愉快そうな舌打ちをして、止めに入った女生徒が寄ってくる前にその場から去る。同士討ちで倒れていた二人もよろめきながら立ち上がり、ピアスの不良の後を追う。 「ちょっと、待ちなさい!」 白髪の少年のところまでやってきた彼女は、呼び止めようとするが、当然彼らは無視して離れていった。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!