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「え、今、笑うとこあったの?」
「あった、あった」と彼は笑いながら、答える。
「俺には、全然わからないんだけどさ」
「いい、いい。わかんなくて、問題ないよ。むしろ、その方が君らしさがあって、いいと思う」
「むぅ、なんか、俺バカにされてないか?」
「してないよ。その証拠に、名乗らせてよ」
彼はフェイの正面に向かい合って、微笑んだ。相手に警戒心を抱かせない完璧な笑顔だ。
「おう、もちろんだ」とフェイは屈託のない笑顔で答える。
「そう言ってもらえて嬉しいよ」と言って、彼は名乗る。「僕は、ユーディアス・ハイエンコード。ユディとでも呼んでくれよ」
「よろしく、ユディ! 俺は、フェイ。フェイ・ウィゾード。フェイでいいよ」
「あはは、フェイ。これで友達だね」
「おう、友達だ」
「でも、ウィゾードって珍しい名前だね。まるで……」
「あれ? ラニシア、どうした?」
フェイは、ユディの後ろにやってきたラニシアに声をかけた。
「おっと、これは失敬。ご機嫌麗しゅう、紅炎の女神様」
ユディは、すぐさまラニシアに向き直り、微笑みを絶やさず貴族の挨拶をする。
「これは、ハイエンコード家が秘める若き剣聖様」とラニシアは言って、フェイの方をちらと見て、挨拶を続ける。「また、奇妙な縁でお会いしましたね」
「また、ではないと思いたいのですが、確かに今回は奇妙な縁がありますね」
ユディもそんなことを言って、フェイの方を見る。フェイは、うん? と思いながらも、まず一番の疑問を尋ねてみる。
「二人は知り合いなのか?」
「ええ、そうね」
「貴族の世界は、案外狭いものなんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
「いや、あなたねぇ、その薄い反応はなんなの?」
「あはは、やっぱり面白いなぁ、フェイは」
そんなやり取りをしていると、ようやく黒板前の人混みがなくなってきた様子だった。
「あ、そろそろ席確認できそうだ」
そうフェイが言うと、ラニシアが言った。
「あなたの席はちょうどここよ」
「え、なんで知ってるんだ?」
「た、たまたま、あなたの名前を見たからよ」
「そっか、ありがとう、ラニシア」
フェイは屈託のない笑顔を振り撒いて、お礼を言う。
「ななな何よ、馴れ馴れしく名前を呼ばないでよ」
なぜか、動揺するラニシア。でも、そんなことなど意に介さず、フェイは自分の席に着く。
「そろそろ、始まっちゃうよ?」
マイペースなフェイに、ラニシアは何やらイラついてしまい、それをプルプルと堪えていた。そんな高貴な女神様の人間らしさに、ユディは笑いを堪えるのに必死になっていた。
そんな中、フェイは、あることに気付く。
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