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1週間ほど経った時だったか。久しぶりのお風呂があった。
お風呂の部屋に連れていかれる時、ベッドに寝たままの俺を色んな人が見てきた。俺はそれを薄目で見ていたのでわかったが、見てない振りをしていた。
お風呂の部屋に着くと、そこには仰々しい機械があった。嘘をつかれたと思った俺は看護士に尋ねた。
「しゅ・・、手術ですか?」
すると、その男の看護士はマスク越しにでもわかるような笑顔で言った。
「ハハっ、初めて見たらそう思うかもしれませんね。大丈夫ですよ、お風呂ですよ。
傷口が痛むかもしれませんが、しっかり洗わないとバイ菌が入っちゃうので頑張りましょうね。
でも、お風呂に入ったらスッキリしますよ」
俺は年甲斐もなく怖くなり、何も考えないようにと自分に言い聞かせながら目を閉じて、時が過ぎるのを待った。たびたび声をかけられるのだが、黙っていると確認するように何度も言ってくるので返事だけはしてあげた。
お風呂を終え、部屋に戻ると先生が来て傷口を確認する。先生は男。色んな話をしてきたが俺にはよくわからなかった。俺はとりあえず返事と笑顔で答えた。
「松村さーん、血糖値計りますねー」
「美加は来てますか?」
この日はまだ美加は来てなかった。
「娘さんですか?まだ来られてないですよー」
「美加は来ますか?」
「ハハっ、私じゃわかりませんよー。来るならもうすぐいらっしゃるんじゃないですかー?
早く会いたいですねー」
俺は不安になった。もう美加と会えないのかもしれないと。
「じいちゃん、来たよー」
「あっ、お孫さんがいらっしゃいましたねー。良かったですねー」
「あっ、じいちゃん、お風呂入った?」
「そうなんですよ。今日お風呂入って。
あと、先生がこれだけ食事を自分でできるから、この調子でいけば思ったより早く床ずれも治るかもしれないって言ってましたよ」
すると孝久は俺のそばに座ると俺の手を握って言った。
「良かったね。でも、無理せずじいちゃんのペースで良いから頑張ろうねっ」
「いいお孫さんですねー。これだけ頻繁にご家族が来てくれるなんて、松村さんがどれだけご家族のために生きていらっしゃったかがわかりますね。
いつも笑顔が素敵だし、優しいおじいちゃんだったんですね」
俺は恥ずかしくて思わず頬がゆるんだ。
看護士がいなくなってから俺は孝久に尋ねた。
「美加は?」
「まだ仕事じゃないかな?」
「何時に来るんだ?」
「何時かわからないけど・・」
「早く来てって電話してくれ」
「とりあえずメール・・、あ、連絡しておくね」
「わかったら教えてくれ」
「うん、今連絡いれたからね」
「ありがとう・・」
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