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「ーー最期までありがとうございました」
「うーん・・、食事を自分であれだけ食べてましたので何とかなるかなと思いましたが・・。正直言って、老衰ですね」
「私、父にあまり孝行ができてなかったので、最期は家で看取ってあげたかったですが・・。
父が元気に退院できる残された希望が食事で口から栄養をとることでしたので・・。でも、私が殺したようなものです」
「松村さん、誤嚥は仕方ないものです。確かに肺炎になり、それが直接的な要因になっているかもしれませんが、こればかりは誰でも起こりうることです。」
「お父さん、ごめんね。食べないと元気にならないからって私が焦ったせいで・・」
美加は仏壇の前に横たわる俺の横でそう言った。
「母さん、仕方ないよ。じいちゃんが元気になる希望は食べることしかなかったんだから」
1ヶ月はあっという間だった。俺も早く帰りたい一心で食事を頑張ってきたつもりだったが、体は思うように食べ物を受け付けてくれなかった。
「こうやって見ると、じいちゃん若返ったように見えるね」
「そうね・・。きれいな顔してるね」
「でも、亡くなる何日かは会話もできなかったのに、最後母さんが話しかけたときはわかってるように返事してたね」
「そうね、それだけは私の唯一の気持ちの救いかな・・。お父さんも私に対して最期まで心を許してくれてたのかなって・・」
俺も美加に布団をかけてもらった時は、少し眠るだけのつもりだった。だるさこそあったが、寝ればよくなるだろうと。だが、俺の意識だけじゃなく、全身が同時に眠りに入ってしまったことで、誰も起きることができなかったのだろうと思う。
深い眠りに就いた体を起こすことはもうできないようだが、意識だけは起きてくれた。俺の体のどこかが、最後に起こしてくれたのだろう。
だが、俺の意識が次に眠りに就いた時は、もう誰も起こしてくれる者はいない。その時は、本当に俺は死んでしまうのだろう。少しでも意識が続く限りは、余生を楽しみたいと思う。
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