希望

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 俺が入院したのは約1ヶ月前のこと。原因は床ずれと栄養失調だったらしい。 「お父さん、しっかり食べないと元気にならないからねっ」  一人娘の美加は毎日夕食時になると俺の見舞いに来てくれた。  俺は今年の誕生日で78歳になっていた。昨年からほとんど寝たきりになっていたのだが、美加が子供と協力して介護をしてくれていた。今思えば申し訳なかったが、入院前は他人に世話になる方が嫌だった。 「お父さん、床ずれがひどくなってきてるから訪問看護みたいなのを頼もうと思ってるんだけど・・」 「それならもう放っておいてくれ。俺はもう死んでも構わんから」  娘は50歳を過ぎていた。華奢な体型の美加からすれば、俺を介護するのは体力的にも酷な話だった。それも仕事をしながら。  美加には二人の息子がいるが夫はいない。夫は長男が高校入学後まもなくしてからの仕事中、事故で命を落としている。  長男は高校卒業後に就職し、家を出ているのだが、結婚を考えている女性と一緒に暮らしているらしい。残った次男は現在大学生で、娘と時間の折り合いをつけながら俺の面倒をみてくれていた。  娘とそんな話をしてから数日後のことだった。 「じいちゃん、血糖値計るよ」  孫の孝久に言われるがままに右手を差し出し、血糖値を計ってもらう。その日も変わらず床ずれの痛みはあったものの、身体はだるさを覚えており、針で刺されるあの一瞬だけの痛みも普段より鈍く感じられた。 「じいちゃん、血糖値が低いから今日は注射やめとくね。もし朝ごはん食べられた時は注射するかも」 「ご飯はいい。何も食べなくていい・・」  本心だった。もうどうでもいいという感覚が少なからずあった。  そしてその日のお昼。朝は栄養補助のゼリーをほんの2、3口だけ食べただけだったが、お腹はすいていなかった。 「ただいまぁっ」 「ん?お母さんかな?  今日珍しく早いね」  孝久は美加の声を聞いて俺にそう言った。俺は音として聞こえていたが、そのことに何の感情も抱かなかった。 「お母さん、どうしたの?こんなに早くに」 「ただ仕事が早く終わっただけよ」  美加の帰宅後も特に普段と変わらない時間が流れていた。しかしその時は気づかなかったが、昼の時間に娘親子が揃っていることがこの後の展開を示唆していたようだった。  玄関のチャイムがなったことはぼんやりとだが認識できていたように思う。だが、朝からのだるさは相変わらずだった。
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