シークエル

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 シークエル

「あのさ。まだ『白崎さん』なの?」  一瞬何を言われてるのか分からなくて、ただ首を傾げる。 「だから、まだ『白崎さん』って呼んでるのかって」  丁寧に言い直してくれた凜には申し訳ないが、やっぱり意味が分からない。  私の顔には『意味不明』とはっきり書かれていたと思う。凜は落胆した様子でこれでもかというくらいの大きな溜め息をついた。失礼だな。 「あっちはなんて呼んでるの、紫のこと」 「紫」 「じゃあ、紫はなんて呼んでるの」 「白崎さん」 「おかしいじゃない」 「何が」  何が。そう思うよりも口が動く方が早かった。 「まあ、いいんじゃない。きっと白崎さんもあたしと同じこと思ってるから」  凜はひとり納得した様子で、うんうんと軽く頷く。 「だって、やっと付き合えたわけでしょ」  この時期にしては天気が良く、気温もそんなに低くないのか日向が当たると過ごしやすい。オープンテラスとまでは行かないが、食堂の外ベンチでだらだら時間を潰すことにした。苦手科目の中間レポートも出したばっかりだし、少し気が楽だ。  で。肝心の凜に対しての返事だけど。改めて聞かれると不安になる。  重々前置きさせてもらうけど、結局白崎さんは授業に本当にギリギリ出た。満身創痍で帰らうとした私に、「帰り待ってて欲しいな」などと会心の一撃を食らわした。そのあとの私も律儀に待っていたが、はっきり言って気が気でなかった。  家路に着くいつものバスを見送って、ふたりで駅で買い物もどきをして現地解散したあの日から、はや二週間ちょっと。連絡を取る頻度は確かに増えたと思うし、たまの休み会ったり、とか。してるけど。 「紫?」  名前を呼ばれてようやく我に返った。自分でも気づかないくらいの時間固まってたらしい。 「たぶん付き合えてる……とは思う」 「え、ここにきて違うってことある?」 「どうなんだろ」 「なんかこっちまで不安なんだけど」  私の返答に一瞬顔を曇らせる凜。その曇り具合、転写されてる気がする。
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