1 配役

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「は?」  失礼だろうけど、今のは本当に腹の底から飛び出した。 「だから、うちと(・・・)白崎(・・)くんが付き合う(・・・・・・・)の、紫ちゃんに協力(・・)して欲しいの」 「どうして私が」 「だって、紫ちゃん意外と白崎くんと仲良いみたいだし。ちょっと妬けちゃったよ?」  ははあ、そうか。などと文豪じみた感想が湧き上がる。  私が白崎さんと面識があると知らなかった彼女はそりゃまあ面白くないだろう。これは悪い事をした。先を見越して言わなかった私に非がある。実際あの時に、「知ってるよ」なんて言えたかどうかは分からないが。  そんなつぐみちゃんは、腕を組みほっぺたをぷっくりとハムスターのように膨らませている。私に心の中を読む能力はないけど、本当はこんな可愛いもんじゃ済まされないんだろう。内心はもう大噴火レベルじゃないだろうか。ハムスターだったら、両側のほっぺたに詰まったひまわりの種をマシンガンの如く、私に飛ばしたい気持ちだろうか。いや、ハムスターはそこまで凶暴じゃないか。飼ったことないけど。  とにかくここまで自分で勝手に想像しておいてなんだが、背筋がゾッとした。 「今日もすっごくかっこよかったじゃん……もう絶対付き合ったら楽しいと思うんだよね」  いったいどこの部分で感じたんだそれを。少し考えてみると、さらっとキーホルダーを褒めてくれた時しか思い当たらない。授業中私に話しているかと思いきや、視線は私の奥の白崎さんに向けていたのは薄々気づいてはいたが。 「とにかく、これからもよろしくっ。紫ちゃん」 「あ、え」  ある種の終身刑とも取れる宣告を受けた私は何も言えずに、可愛らしく手を振って階段を下りていく彼女を見ていた。
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