1 配役

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「いや、それは馬鹿でしょ」  借りているアパートに着くなり、誰かに話しているようにいとも簡単に口から零れた。玄関でスニーカーを脱ぐと、壁に寄っかかりながらだらだら進む。  本当に疲れた。いつも大学に行くだけでも大変なのに、この精神的な疲れも堪える。私は背負っていたリュックをどさっと下ろした。文字どおり肩の荷を下ろしたわけだが、楽になったのは体だけで心には重く何かがのしかかったままだ。  なんだかこの間からモヤモヤする。  はっきり言ってしまえば、やっぱりあのつぐみちゃんと夕ご飯を食べてからだ。確かうどんも二回くらい詰まらせたし。それに加えて今日のあの協力要請。今年は厄年かと思うくらいだ。 「だいたい、なんで。あんなこと頼まれないといけないの」  だんだんむしゃくしゃしてきた。つぐみちゃんには勿論だが自分にもむしゃくしゃする。だいたい白崎さんとはただの知人で、こんな風に座布団に八つ当たりする必要がないわけで。そんなことは頭の片隅で分かってはいるのだが、何故だか落ち着かない。  ちらっと部屋のデジタル時計を確認すると、十七時過ぎを表示していた。今日は午前中からだと言っていたバイトもさすがに終わっている頃だろう。私はスマホからある電話番号を呼び出した。
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