1 配役

8/9
前へ
/85ページ
次へ
『いや、それは馬鹿でしょ』  白崎さん絡みの一件をあらかた聞いたのち、私のさっきの独り言がそのままスマートフォン越しに聞こえてきた。 「あの、はい。仰る通りです……」 『今日授業入ってなかったから、会えなかったのが尽く残念だわ。てか、なぁんでそういうこともっと最初に言わないのかなアナタ』  いや本当に全く。自分で一部始終を話しておいて、だんだん声が小さくなっていく。  そして、向こうから明らかに伝わる驚きと諦めに似た声音。顔の見えない相手にも関わらず、愛想笑いを浮かべてしまった。  電話の相手は柏木(かしわぎ)(りん)。大学で知り合った私の数少ない友人だ。こういう話を親身に聞いてくれるのは、本当にありがたい。 『あまり面識ないから、その菊原? さんのこと悪く言いたくないけどさ』  凜はそう前置きすると、本当に言いづらそうに間を置いて、すうっと小さく息を吸う音が聞こえた。 『まあ、ちょっとやり方が汚いわ』  さっきの妙な間は何処へやら。ズバッと一刀両断する音でも聞こえてきそうな勢いだ。 『てか、紫はその白崎くんのことどう思ってんの』 「どうって?」 『好きか嫌いか。恋人になりたいかお友達になりたいか、とか』 「こいびっ」  舌噛んだ。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加