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「なんでもない。気にすんな」
突然頭にぽんと手のひらを乗せられて、びっくりする。反射的に肩が一瞬震えた。
「……なんか小動物っぽい」
「えっ、な、そ、それってどういう」
恐る恐る上げかけた顔を一気に起こすと、彼は「別に」と悪戯っぽく笑う。何が何だかと半分混乱している私の後方で、彼の名前を呼ぶ男性の声がする。声の主に向けて「今行く」と短く答えていた。
「課題見せろってうるさいんだ」
どうやらお友達だったらしい。困ったもんだ、とでも言わんばかりに笑いながら肩をすくめた。そのリアクションを見ると何を大袈裟な、と思ってしまうが彼の様子をみるとあながち嘘でも無さそうだ。
「月下のことだから、もう課題なんてとっく片付けてるんだろ?」
「出来てはいるけど、そんな期待するほどの内容じゃないよ」
「いや完成してるってのが偉い。ほんと、あいつらも見習ってほしいくらいだな」
優しくぽんぽんと頭を撫でられる。その瞬間、私の身体はぴしりと固まり、黙って暖かい手を撫で受けていた。そんな中、後ろから彼を急かす声がする。彼は私に対して申し訳なさそうに手を離し、私の身体からも力が抜けた。
「悪いな月下。じゃあまた今度」
「あ、うん……また、今度」
私もぎこちなくひらひらと手を振って、その場を後にする。つられて『また今度』なんて言ってしまったが、いったいどういうつもりで言ったのか見当がつかない。ただ、やけに気になってしまって顔が火照りつつあった。
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