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5 閉幕
文化祭が終わって、平凡な日常が戻ってきた。大学の壁や掲示板はあっという間に質素に逆戻り。ただ、例のビブリオバトルの結果は、申し訳程度にまだ壁に残っていた。
模造紙にマジックで大きく書かれている。僅差で恋愛小説の勝利。後夜祭まで残っていたから結果は既に承知の上だが、なんとなく溜め息が出た。
「紫ちゃーん」
今や元文化祭実行委員会 書記となったつぐみちゃんが私に向かって駆けてくる。今日もまた可愛らしい格好だ。
「これ、はいっ」
パステルブルーのワンピースの袖をひらつかせ、両手で差し出されたのは、市販のお菓子の山。いわば文化祭の在庫処分市。こんなに貰ってしまってはおなかいっぱいになってしまう。一人で食べ切るのは難しそうだ。
「どうしたの。これ」
「なんか最近紫ちゃんのこと使ってるみたいで悪いなぁと思って」
そんな今更すぎることをなぜ今になって。もっと早めに切り上げてくれれば良かったのに、と心中憎まれ口を叩いた。直接言えるほどの関係ではないので、黙って話を聞き流す。
「そのお詫びに。紫ちゃんにプレゼント」
そして物で解決しようと踏み切ったその態度が清々しい。
「気を遣わなくていいのに」
「でももう大丈夫だよ」
「ん?」
大丈夫ってどういうことだろう。ようやく解放されると思ったのはつかの間。
「白崎くんに告ったから」
「……告ったって?」
「もう紫ちゃんってば。うちから告白したってこと」
いやそれは、そうなんだろうけど。
さっきから生き生きした顔をしていた理由をガツンとぶつけられた。私も私で何も知らないフリをしているが、あっちだって全部分かっているはずだ。
「また何かあったら色々お願いすると思うけど、その時はよろしくね」
ひとまず手切れ金、ならぬ手切れ菓子というわけか。私は両手に散らばる個包装たちをただ見下ろしていた。
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