5 閉幕

2/7
前へ
/85ページ
次へ
 とぼとぼと歩き始めた私だが、行くあてもない。授業もない、とまで言えば嘘になる。勝手になかったことにした。  もう、ほんとにこのまま帰ろうかな。なんて考えがぼんやりと浮かんだ。そう思った傍から足は自然と玄関へ向かい始める。つぐみちゃんに会った大講堂前から、俯きながら歩いた。  数々の靴が通り過ぎるが、一足だけ私の目の前で止まった。その黒のスニーカーからゆっくり顔を上げると、不思議に首を傾げた友人。 「あ、凜」 「おー。おつかれ」  普段と変わらない挨拶を返される。ただ、私はその後の何気ない会話を続けられる自信がなかった。話す代わりに、リュックサックの持ち手をぎゅっと握り直す。 「なに、なんかあった」  凜に心配そうに顔を覗き込まれてしまって、一気に涙が溢れ出た。  しばらくして凛がコップの水を煽る。 「落ち着いた?」  私は鼻をすすりながら、何度か頷く。まさかこの歳にもなって、しかも大衆のど真ん中でぼろ泣きするとは自分でも驚いた。  目立たない食堂の窓際はカウンター席で、みんなに背を向ける形だから顔を見られることも無い。こんな端っこまで連れてきてくれた凜には悪いことしたな。 「別に無理して言わなくてもいいよ」  自動販売機から買ってきたサイダーを差し出す凜。それを受け取って、ペットボトルのふたを捻った。しゅわしゅわと口の中で泡が弾ける。低刺激とは書いてあるが、結構びりびりした。 「……自分でも何が悲しいのかよく分からないんだけど、なんか」  ひっく。  一気に飲み込んだからか、しゃっくりが出始める。凜は「うん」とだけ言ってしばらく黙っていた。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加