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とぼとぼと歩き始めた私だが、行くあてもない。授業もない、とまで言えば嘘になる。勝手になかったことにした。
もう、ほんとにこのまま帰ろうかな。なんて考えがぼんやりと浮かんだ。そう思った傍から足は自然と玄関へ向かい始める。つぐみちゃんに会った大講堂前から、俯きながら歩いた。
数々の靴が通り過ぎるが、一足だけ私の目の前で止まった。その黒のスニーカーからゆっくり顔を上げると、不思議に首を傾げた友人。
「あ、凜」
「おー。おつかれ」
普段と変わらない挨拶を返される。ただ、私はその後の何気ない会話を続けられる自信がなかった。話す代わりに、リュックサックの持ち手をぎゅっと握り直す。
「なに、なんかあった」
凜に心配そうに顔を覗き込まれてしまって、一気に涙が溢れ出た。
しばらくして凛がコップの水を煽る。
「落ち着いた?」
私は鼻をすすりながら、何度か頷く。まさかこの歳にもなって、しかも大衆のど真ん中でぼろ泣きするとは自分でも驚いた。
目立たない食堂の窓際はカウンター席で、みんなに背を向ける形だから顔を見られることも無い。こんな端っこまで連れてきてくれた凜には悪いことしたな。
「別に無理して言わなくてもいいよ」
自動販売機から買ってきたサイダーを差し出す凜。それを受け取って、ペットボトルのふたを捻った。しゅわしゅわと口の中で泡が弾ける。低刺激とは書いてあるが、結構びりびりした。
「……自分でも何が悲しいのかよく分からないんだけど、なんか」
ひっく。
一気に飲み込んだからか、しゃっくりが出始める。凜は「うん」とだけ言ってしばらく黙っていた。
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