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凛は時々、「うん」とか「それで」とか単発で相槌を打っていた。あらかた話終わると、直ぐに「ごめん」と謝られた。
「あん時にあたしと一緒に帰ればよかったね。ほんとごめん」
「や、全然。そんなことない」
凜が謝ることはまったくない。私は頭を下げられ、慌てて顔を上げるように促した。
何も知らない情報とある程度知った上で聞かされる情報とでは、受け取り方がまるで違う。今回の私はどちらかというと後者で、『ある程度』どころか一部始終をこの目で見ていたわけだけど。後ろから殴られるか正面から殴られるかくらいの違いだ。
私はサイダーのふたを再び開けた。
「勝手にずっとひとりでドキドキしちゃった」
何の気なしに呟いた時、凜がぴくっと眉を動かす。
「ねえ、ちょっと紫。それ本気で言ってんの」
今度は怒ったように、私に向かって詰め寄った。コップをぐぐっと煽って、勢いのままゴンッと机に叩きつける。プラスチック製で良かった。
「な、なに」
「菊原さんが告ったって話なんだよね」
「うん」
「つまり、そのあとの白崎さんがどうこうとか聞いてないわけでしょ」
「そう、だけど……」
尻すぼみの返事に、凜が「なによ」とまだイライラが収まらない様子で噛み付く。
「だってもう、これ」
私は、リュックサックに突っ込んでいたお菓子を目の前でバラバラと広げた。
「何これ」
出だしの言葉に詰まった凜が静かに呟く。
「さっき渡されたの、つぐみちゃんに。もう大丈夫だから、って」
「へえ」
なんの感情もこもってない返事だった。冷ややかに散らばったお菓子を見下ろしながら、頬杖をつく。
「こんなん食うな。あたしが全部食ってやる」
言うが早いか、むんずと文字通り鷲掴み。個包装の袋を乱雑に開けて、ばりばりと口で噛み砕いていた。
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