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やっぱり授業はなかったんだ。そうだそうだ。水を飲み干した凛がもう帰ろうと言うので、二人で仲良く帰ることにした。
「結局話聞いてもらっちゃって」
「ちょっと待った。今、謝ろうとしてるでしょ」
凜が私の言葉を遮るように、ピシッと人差し指を立てた。わざわざ帰り支度の手を止めるから、つい身構える。
「話してくれてありがと」
おでこをピンッと押された。条件反射的に押さえてしまったが、痛くはなかった。いくらか加減はしてくれたらしい。
「ってか、むしろあたしが謝らないといけないから」
「いや凜はほんとに全然気にすることないし、私が」
「いんや、あたしだって」
「いやいや私が」
「やめよやめよこれ。お互いキリなさそう」
お手上げといわんばかりに、凜が両手を高らかにあげた。あまりの勢いに、周りのを歩いていた学生がぎょっと目を丸くしている。私もこれ以上は話を広げないよう、こくんと頷くだけにした。
その後はようやく他愛もない話をして、てくてく玄関に向かって歩く。
「あっ、そうだった」
校門をくぐった時、凜がおもむろに声を大きくした。何か忘れものでもしたのかと私は首を傾げた。
「白崎さんが探してた」
そんな爆弾急に投げないで欲しい。私のことじゃないことを祈ったけど、この流れでそれは望み薄だった。
「嘘」
「これはごめん、ほんと。その後に紫と会ったから、時間的には補講始まるちょっと前くらいだったかな。『あたしは見てないです』って返した」
私に会う前にそんなことが。タイミングがいいと言うか悪いというか。
「もしかしたらなんか連絡あるかもね。今、連絡取り合ったりとかしてない?」
凜に言われて改めて思い返す。そういえば、白崎さんと連絡先交換してたんだった。文化祭以降、あちらから何も連絡も来ないし私からもない。連絡する内容もないのが現実だけど。
私は「してないよ」と答えて、続けざまに理由まで話す。
「交換したの、電話番号だし。勝手に番号検索してアカウント追加するの気が引けるって言うか」
「あー、なんか気持ちわかるわ。でも白崎さんと紫の仲なら、全然気にすることないと思うけどな」
凜の最後の言葉に、どんな返事をしたらいいか戸惑った。
帰ってよかった。どうせ補講分だし。実のところ、今日の六限目はあの板挟みをくらった授業なので、尋常じゃなく気が重かった。
あの二人が仲良くしてるのを見なくて済む。そんな不純な理由だ。
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