5 閉幕

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 帰宅して初めて気が付いたが、スマートフォンの通知が来ている。サイレントモードに設定してるため、よくあることだ。ダイレクトメールかアプリの通知だろうと思って、画面を表示すると不在着信が二件。名前はどちらも『白崎 菖悟』とある。 「えっ」  凜の言っていた通りだ。  かけ直した方がいいのか悩んで、部屋の時計を確認する。多分まだ向こうは授業中だ。よく見ると、留守電にメッセージが残っていた。聞きたくない気持ちの方が格段に大きいが、恐る恐る再生ボタンを押す。  開口一番「わっ、そっか。留守電か」と小さな嘆きが聞こえて、申し訳なさが一気に迫り上がった。 「し、白崎です。体調悪い? 今日の分のプリント貰っておくから、明日の四コマの時に会えれば渡すな」 「明日って」  録音だと分かっているはずなのに、思わず返事をしてしまう。当然ながら電話口の白崎さんはなんのアクションもしない。そのまま電話を切ろうとしたその時。 「どうしたの、先生来ちゃうよ?」  女の人の声がした。恐らく電話の付近にいるのだろう。白崎さんが「もうすぐ終わるから大丈夫」と少し遠くで優しい返事をしている。  そのあとすぐに電話口の近くに戻ってきたかと思うと、「じゃあ、またな」と言って今度こそ切れた。 「明日?」  もう一度繰り返す。私は自分の時間割を頭の中で開いた。たしかに会う、けど。よりによってグループワークの授業か。気が重いのがずんずん続く。  手元のスマートフォンは、いまや『再生終了』の文字すら消え、ただ暗くなった画面が映るだけだった。  
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