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そして私は今、教室入口付近であてもなくうろうろしているわけだ。ドアを開けて一旦中に入れば、もう逃げ場がないような気がした。
この際、真正面の席でもいいから遅れていこうかなとか逃避癖が顔を出す。だけど、現実はさすがにそうはさせてくれないみたいだ。
「おー? こんなとこで何してんの」
振り返ると、両脇に女の子を侍らせてる。それよりか、自然と寄ってきてる。そんな感じだ。人を見た目で判断してしまって申し訳ないけど、チャラい。女の子だけじゃなくて、男子もいるけど軒並み圧巻される。どこに売ってるんだその柄の服。
「浅草、さん」
私が迂闊に呼んでしまったのがまずかったのか、周りにいた女の子たちがぐるりと一斉に顔をこちらに向けた。怖。謎の威圧感がある。全員がキラキラしてて、私には持っていない雰囲気を纏っているから情けなくなった。
ところで、浅草さんご本人は気にする様子が露ほどなく「俺のこと覚えてくれてたんだー」だなんて口走っている。呑気か。
「悪ぃ。今、菖悟居ねーんだ」
「あ、えと。別にそんなつもりじゃ」
じゃあどんなつもりなんだ。軽くパニック気味で我ながら言ってておかしくなってきてる。
「あれ、違った? じゃあもしかして俺とか」
冗談交じりに自分を指差す浅草さん。早くこの場から退散できるなら、なんかもうそれでいいような気がする。やけっぱちで「そうなんです」と頷きかけた瞬間。
「彰良」
その呼ぶ声に私の方が身構えた。
「やっほー、菖悟くん」
「っと、お疲れ様です」
「かわいーっ。全然慣れないね」
髪をゆるふわカールさせた女の子に、萎縮した様子の白崎さん。というか、今流行りの挨拶は「やっほー」で正解なのか気になった。
「月下は、俺に用事」
だよな、とこちらに完全に話を振られた。確かにそうなんだけど、そうとも言いたくない。
肩をすくめた浅草さんは「分かってるよ」とへらっと軽やかに笑った。
「じゃ、またね」
「はあ」
会釈程度に返す。一応、周りの女の子たちにもペコペコと頭を下げた。またグループワークで一緒にでもなったりしたら、これ以上気まずくなりたくない。
傍を通り過ぎていく時、女の子たちが私の詳細を聞こうとしているのが耳に入って、少し泣きたくなったけど。
「渡すついでに話すことあるから、ちょっとこっち来て」
「別にここの教室でも」
「ちょっと来て」
どこに居たって逃げ場がないのは同じらしい。本能的に察した。
私は白崎さんについて行きながら、浅草さんの下の名前は「あきら」って言うんだなどとぼんやり考えていた。
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