6 幕間

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「ごめんね、お手数おかけします」 「全然。謝ることないよ」  私たち以外誰もいない空き教室。白崎さんがカバンをガサゴソ漁る音だけがよく聞こえた。 「体調はもういいのか?」 「えっ。まあ、おかげさまで」  答えた時少し心が痛んだけど、白崎さんは「良かった」といつもの笑顔だ。尚更心が痛い。それ以降私も続ける言葉がなくて、黙って待っていた。しばらくすると、「あった」と呟いた白崎さんがクリアファイルごと取り出した。 「ちょっと折れちゃってるかも」 「大丈夫、ありがとうございます」 「うん」  プリントを受け取ったのは良いが、白崎さんが何か言いたげにしている。 「あの?」  私が首を傾げて相手の出方を待つと、意を決したのか白崎さんがぐっと私と視線を交えた。 「なあ、どうしたんだ。こないだから」 「どうしたって何がですか」  申し訳ないが、その質問には答えられない。答えたら自分がなんかもう、崩れてしまいそうな気がする。砂糖菓子みたいにとまではいかないけど、ほろほろと土へと還っていきそうだ。 「避けてるだろ、俺のこと」 「そんなことな」 「いわけない」  まだ最後まで言っていないのに、白崎さんは私が言おうとしていた結論を簡単に変えてしまった。そういう真っ直ぐなところが羨ましい。だけど、今はそれが恨めしく思える。 「俺は、もっと月下のこと知りたいんだけど」 「は」  いや、ちょっと。待って欲しい。それは嬉しくもあるけどなんというか、今は本当にしんどい。ただただひたすらしんどい。  話せるものなら私だって、貴方ともっと話してみたいしもっと貴方のことを知りたいと思う。でも、それはできない相談だ。  だって、つぐみちゃんが。 「そう言われましても」  代わりにどうにかして紡ぎ出した返答は、なんとも情けなくなった。口から出てきたたった九文字は、後半につれて段々と小さくなる。  これではまるで、情に訴えかけているみたいだ。きっと今の私は相当な悪女に見えるに決まってる。少なくとも、私が客観的に見たら色んな意味でいい女には見えない。 「月下?」  そんな悲しい顔で見ないで欲しい。泣きたいのはこっちだ。本当に自分で自分が嫌になってくる。いっそこのまま泣いてしまおうか。  私はそれ以上は何も言えず、その場から走り去ってしまった。
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