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やってしまった。これは大々的にやってしまった。
にもかかわらず授業に出向いただけでも褒めて欲しい。そろりとドアを開けたが、悲しいことにギィッと軋んだ音がする。
「お、よく来てくれたね。まだ始まってないから座っていいですよ」
ライブに遅れてきたみたいな演出をする教授に、心底やめてほしいと思った。それと、私が座れそうな席はやっぱり真正面しか空いていなかった。
今回は前の講義のようなグループワークは無く、完全に座学で本当に安心した。これが何回目の授業だとか、シラバス通り進んでるかとか確認すらしていない。とりあえず、欠席日数の上限は超えていないはずだ。
白崎さんは今、授業受けてるんだろうか。もしかしたら、とっくに教室に入ってきてるのかもしれない。しれっと後ろの浅草さんたちの集団に紛れているのかも。
とにかく、今日は前の黒板がよく見える。
授業が終わったと同時に人目も憚らず、校内を激走。女子トイレに直行した。正しくは化粧室か。言葉の通り、鏡と化粧台に加えて白光りの照明が眩しい。誰かのヘアアイロンと化粧ポーチが乱雑に散らばっていた。
へなへなと足の力が抜けていく。こんな少女漫画でもあるまいし、などと思いながらこれでもかと溜め息が漏れる。
「なにしてんだろ」
本当に。
すると、背負っているリュックサックから何やら振動が。マナーモードにしている私のスマートフォンだ。けたたましく震えていた。液晶に映し出された文字は『白崎 菖悟』。このまま電話が切れるのをしばらく待っていたが、なかなか切れない。かと思えば、留守電になった途端切れてまたかかってくる。それを繰り返すうちに、履歴はどんどん埋まっていく。
まさかこれ。鬼電だ。
「……もしもし」
『今どこ』
根負けした私が電話に出るや否や、食い気味に聞いてくる。
「し、白崎さんには別に」
『いいから。どこ』
初めての電話がこんな一方的なものになるとは思わなかった。いっそ留守電の方が良かったとも思った。
「用事だったら、今この電話じゃだめなんですか」
『俺は、月下の顔ちゃんと見て話したい』
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