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白崎さんの切なそうな声音に、言葉が続かなかった。二人の間で沈黙が流れる。授業も終わって、そろそろ人通りも激しくなる頃だ。このヘアアイロンたちの持ち主も戻ってくる可能性はゼロじゃない。
「白崎さんは」
『うん』
「白崎さんは、今どこにいるんですか」
私の問いかけに対して、白崎さんのすぅっと息を飲む音が聞こえた。
『プリント渡した隣の教室にいる』
どちらにせよ大教室のすぐ近くだ。授業はやっぱり受けていたらしい。気配を消せるんだったら私にも伝授して欲しかったなと、脳内の呑気な私が一瞬出てきた。
「……もう、今日は帰るんですか」
口から自然に出た質問がどういう意味なのか、自分でもよく分からない。
『ううん。まだ居る。来て、くれるのか?』
恐る恐る確認する感じがひしひしと伝わった。今度は私が息を飲む番だ。
「行きます。待っててください」
白崎さんが『わかった、待ってる』と短く答えたのを確認して、腰抜けの私は電話を切った。
不意に廊下ががやがやと騒がしくなる。その音が化粧室に近づいて来るのとは入れ替えに、飛び出した。
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