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7 カーテンコール
「紫ちゃん、聞いてよ。白崎くんにフラれちゃったのっ」
つぐみちゃんに文字通り泣きつかれたのは、あれから随分経ってのことだった。
「ふ、ふられた?」
「そう。ほんとすっごくショック」
勢いよく頷かれても。突然の急展開に何を言ってるか分からず、出だしが遅れた。今の私、普通に喋れてたか。喉の奥が張り付いて、上手く言葉が出なかった。
只今、大学に向かう途中。バス停を降り、キャンパスまで続く申し訳程度のケヤキ並木をてくてく歩き始めた矢先だった。いきなり横から私の腕をぐっと絡めてきたつぐみちゃん。彼女の着ている、割としっかりめのコートの生地ならもたつくはずだが、熟練の技なのかしっかり組んできた。
私の腕よりも、だ。白崎さんとつぐみちゃんが二人仲睦まじくでハッピーエンドになるはずだったのに。でも、つらつらと白崎さんへの恨み節をこぼすつぐみちゃんを見ていると、そんなこともなかったのかなとうっすら思う。
「お相手はなにか言ってたの」
私の質問は、好奇心なのかそれとも別の何かか。気づけばそんな言葉を口にしていた。
「なんかね。菊原の気持ちは凄く伝わるけど、俺は応えられる気がしないって」
「そう、なんだ」
なんだろ、この違和感。私の中で湧き上がったもやっとしたものが彷徨い始める。はっきりとは分からないけど、白崎さんが言ったとすればどこか釈然としないような。
少しだけ首を傾げた私に、つぐみちゃんはぐぐっと腕の力を強めたように感じた。
「ねえ。うち、何でフラれたんだろ。結構頑張ってたと思わない?」
『頑張ってた』か。しかも『結構』とは。
その努力はどれを指すのかは私には知る由もない。つぐみちゃんは本当に不思議そうだったけど、私がいちばん不思議だった。
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