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ケヤキ並木をようやく抜けると、私のリュックを押していた凜がすすっと隣に並んだ。この肌寒い季節に変に冷や汗かいて、ますます寒い。
それにしてもつぐみちゃん。良かったのかな。
「気にしなくていいよ」
身軽になった後ろを気にしていると、こちらの心の中を見透かしたように言われた。
「すぐ別の気になる人が見つかると思うから」
「そういうもの?」
私が聞くと真正面を向いたまま、凜はこくんと頷いた。
「てか、だいたい人のことをなんだと思ってるわけ」
「自分はなんにも悪いことしてないですぅみたいな態度で振舞ってるとこがまたなんていうか」
いつものことながら、鋭利な切り口だ。今までよっぽど我慢していたんだろう。久しぶりの顔合わせがあの場面だったのも相俟って、相当量のガソリンに違いない。大爆発だ。だけど決して声を荒げるわけではない。代わりにその怒りを抑えるように、時々溜め息を漏らしていた。
「嫌な気分になるくらいだったら、マジでもう聞かなくていいよ。あの人の話は」
ひとしきりぶつぶつと言ったあと、締めくくりにそう結んだ。朝からここまで喋る凜も珍しい。なにより、今私のためにここまで怒ってくれているのか。
私が呆気にとられてると、急に「あっ」と声をあげた。
「ごめ。勝手に」
私が黙っているのを引いたと思ってしまったみたいだ。
「ううん、そうじゃなくて。ありがたいなと思って」
「そっか。なら、いいけど」
凜はそれ以降何も言わず、くあっと大きな欠伸をする。ようやくいつもの朝だ。
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