39人が本棚に入れています
本棚に追加
「凜、もう授業だったっけ」
玄関に着いた頃にそう尋ねると、凜は「ううん」と口を動かさずに答えた。私もこの時間は空きコマだ。
「もう教室行く?」
「ちょっと購買寄りたい」
『購買』とは、大学内にある売店のことだ。凜がちょいちょいと指さした方向には、確かに購買がある。
「いらっしゃいませ」
ぐるっと購買の中を回る。まだこの時間は授業時間内だからか、そんなに混んでいない。昼過ぎにかけてのごった返すあの勢いに見慣れてしまって、ここまで静かな店内に物足りなさを感じてしまった。
凜は結局、レジ付近に並べられたガムやタブレットに戻って、色々吟味しているようだった。
「あのさ、凜」
「うん?」
「白崎さんのこと、話してもいい?」
ライムミント味のガムボトルに伸ばしかけた凜の手が一瞬止まった。
「話したい?」
そのまま手に取って、レジに並ぼうとする。彼女の手の中で、ボトルががしゃりと鳴った。私は特に買うものもなかったので、凜の後ろだ。
「テープでよろしいですか?」
「お願いします」
店員に聞かれていたので、凜に返事をするのを待った。名札が手書きだ。学生アルバイトらしい。
「ありがとうございましたぁ」
二人で会釈する。凜は早速バーコード上にテープの貼られたガムボトルの封を開けた。が、口に入れようとせずにそのまま蓋を閉じる。
「あれ。食べないの?」
「大事な話なのに態度悪いでしょ」
そう言いながら、リュックにしまった。
「こっちで聞こうかとも考えてたけど」
『こっち』と代わりに取り出したのは、彼女のスマートフォン。
「あたしから聞くのは違うなと思って」
最初のコメントを投稿しよう!