7 カーテンコール

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「えっ。やっぱそうなん」 「そーよ。超仲良しだもんね」 「うわー、それは残念だな」  揃いも揃って皮肉か何かですか。こういう冗談って慣れてないと返しが難しいな。私は迷いに迷った挙句、喉の奥からうぐぅと鳴き声しか出なかった。 「そこはそうって言っていいのに」 「ソウ、カモ、シレナイデスネ」  ご友人に半ば促されてガチガチ棒読みの肯定。 「全然カタコトじゃん。バラしちゃおっかなー。し」 「だー、ちょっと待っ、ほんとに」  私が止めに入ると浅草さんは本当に可笑しそうにくくっと笑う。絶対今『白崎』って言うとこだった。明らかに『し』って言ってた。なんだったら次の言葉が「らりるれろ」のどれかだ。完全にR(アール)の口だったな。もしかしたらL(える)かもしれないけれど。普段は名前で呼んでるくせに、フルネームで言われそうな気がした。  ここで国文学科らしく言語分野の議論になっても困るので、どちらにせよ黙った。 「だーって何」  凜が若干冷めた目でこちらを見てくる。おのれ。 「人のこと言えないでしょ、さっき自分だってばーって」 「しら」 「んなー」  待て、こっちもか。数に頼るのは卑怯だぞ。隣の凜に思わず詰め寄ると「こわ」と割と本気のトーンで言われた。 「しらけるよ。そういう態度だと」 「んな、な、なにしらけるって」 「そうそう。しらけちゃうよ」 「は?」  しまった、つい声に出してしまった。凜と同じノリの浅草さんは、笑いを堪えきれずにぶはっと大きく吹き出した。 「あれ? なんか勘違いしちゃった?」 「あんのもう前見てください。先生来てるから」 「はいはい」  それでも半笑いが抑えられないのか緩みっぱなしの口許だった。  授業が終わり、教室を出る。黒無地シャツのご友人と何名かは部活のミーティングがあるとのことで、ここで解散。  廊下には既に次の授業の人たちが集まり始めていた。国文学科の選択必修科目だと思う。三年にもなって必修となると謎にプレッシャーがかかるのは私だけかな。 「菖悟ー」  浅草さんがてててーっと長身ながらに小さい歩幅で駆けだした。先にはまさしく白崎菖悟さんご本人がいらっしゃる。 「珍しいな、彰が午前のコマ出てるの」 「ひでえ言いようだなあ。ま、それでも俺は月下ちゃんたちと一緒だったもんねー」  確かにそれはそう。ですけど。なんか語弊の余地が。 「あ、月下も?」  白崎さんがきょろきょろと辺りを見回している。私はなんだか合わせる顔がなくて、そそくさと凜の影に隠れた。  ここで凜が大きい声で白崎さんを呼んだりしたらどうしようかと考えたけど、今回はこっちの味方になってくれたらしい。 「探されてるよ」 「やっぱりあれそうだよね」  ただ追い打ちをかけるように事実を述べてくれる。 「愛されてますなあ」 「それは知らないです」 「あ」  今度はなんだ。事が大きくなければそれでいい。凜が説明するよりも、私が目の端でしっかりめ生地のコートを捉える方が早かった。傍を横切った女の子が速度を上げたかと思うと、もうあちらの男子陣に加わっている。 「やっほー、浅草くん。白崎くんも」  あれれれ。なんか聞き覚えのある声。声の主の方はあまり見たくないな。私はますます凜の後ろにすっこんだ。 「ね。ほんとすぐだったでしょ」  目の前の凜はもはや笑うしかないって感じだ。小さく肩をすくめてみせる。 「切り替え早いから。ああいうタイプ」  最後のつぶやきがざくりと尖っていた。もう流行りの挨拶はやっほーでいいよ。
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