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「そんなことないです」
「白崎さんとお話できるのすごく嬉しいです。こんなことお話出来て良かったなあとか、今度はもっとゆっくり時間あったらいいなあとか。文化祭の時だって、アナウンスしてるの聞いてお仕事してる時はこんな感じなんだなあって思って、あと一緒に文化祭回れて楽しかったです。それから、あの、つぐみちゃんと付き合っちゃったらどうしようとか、ひとりで考えちゃって、えっと」
正直、これ以上しゃべるとどんどん墓穴を掘っていくような感覚がうっすらしてきたので意図的にやめた。それにしても、なんだか凄いことを言ってしまったような気がするけどもうどうにでもなれ。やけくそだ。せっかく白崎さんも言ってくれたんだし、これでおあいこにならないか。
すると今度は白崎さんがきょとんとする番だった。しゃがんだまま微動だにしない。私がつらつら脈絡のないこと言ってる間も黙って聞いていた。せめてちょっと動くとか声を出すとかしてほしい。逆にこっちが落ち着かなくなってきてると、白崎さんがおもむろに大きく息を吐きだした。
「もう、月下。そんな風に思ってたんだ?」
白崎さんが小さく「可愛いなあ」と穏やかに笑いかけてくる。
「か、か、か、かわいい?」
聞き返しちゃった。キーホルダーの可愛いと少し違う気がした。こんなに真正面から言われると苦しくなる。圧倒的な経験値不足がたたって、はくはくしてると白崎さんがしゃがんだまま距離を詰めてきた。
「そういうとこも可愛い」
「いや、その」
やめてほしい。顔が熱くなってきた。さっきから何の話をしてるんだっけ。言葉の意味がよく分からない。私が本当に言われてるのかすら疑わしい。ぶんぶんと首を振って、頭の片隅にありそうな少しの正気を呼び起こそうとした。
「今のってさ、俺のこと好きかもってことで合ってる?」
本人に言われて、もう逃げられないと思った。自分の口から微かに「あ」などの一文字や息だけが漏れてくる。
ただ、私はこくこくと精一杯頷いた。きっと顔は茹でダコみたいに真っ赤になってるに違いない。湯気がでそうなくらいだ。
ろくに言葉も発せない返事もどきにも関わらず、白崎さんは満足そうににっこりする。ゆっくりと手を伸ばして、私の頭の上に置かれた。
「あえ」
「嬉しいな。……まだ、このまま月下と一緒にいたいんだけど」
「ひえっ」
なんか、なんかガンガン来る。どんどん? ぐいぐい? とにかく、ここぞとばかりに物理的にも心理的にも詰めてきてるのが分かった。私が何も言えないでいる間も、白崎さんは頭を優しく撫でてくれる。顔をあげられない。せめて呼吸は整えたくて深呼吸すると、飛んでいた思考回路も戻ってくるようだった。
「でもその、白崎さん、授業が」
「あー、そっか」
そこで白崎さんの手がぴたりと止まる。ようやく思い出したとでも言わんばかりの口ぶりだ。
「私も一緒にいたいけど」
「うん」
「単位も大事だと思うから」
「やっぱり真面目だなあ、月下は」
柔らかく微笑むと、再び優しく頭を撫でてくるのだった。
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