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自分の頭を掻きむしりたくなる。というかなんでこのタイミングなんだ。
「恥ずかしい?」
そのひとことで余計に恥ずかしいんですが。
「何も言ってない」
「俺は紫って呼んでも平気だよ」
「それは先に白崎さんが『名前で呼んで良い?』 って聞いてきたから平気なだけで」
「しょーご。な? お願い、今だけでもいいから聞いてみたい」
うぎゃぎゃぎゃ。ゆっくりと確かめるように名前を言われる。もちろん分かってはいるけど、気持ちの踏ん切りがつかない。
何よりもこの待ってると思われる時間が嫌。急に一分が長くなった。白崎さんは頬杖を軽くついて楽しそうに目を細めてくる。何も言えない、言いたくない私は浅い息をするだけでやっとだ。余裕を分けてもらいたい。
私達のテーブルはやけに静かで、店内から聞こえる食器の音がはっきりして、ますます気が滅入った。
「しょうご、さん」
最後まで言い切るか言い切らないか微妙なラインで、しんどさが思いきり顔を出した。私の方が根負けするのはだいたいいつもの事だけど、なんか、なんか今回はやけに悔しい。
「あー。結構にやけるな、これ」
当の本人は吹き出すのを堪えているようで、声が震えていた。嬉しそうで何よりではある。
「もうしばらく言いませんので」
「はいはい。だってほんとに可愛いんだもん」
人が頑張って言ったのに。顔が本格的に熱くなってきたので、お冷をちびちび飲む。少しは頭がすっきりしたつもりになった。
「可愛いなあ」
「わ、わかったから」
「何がわかったの?」
「わかんないけどわかったから」
私の返事にふふふとまた笑った白崎さん。私といる時本当に楽しそうに見えるけど、彼女でいいのかな。変に振り切ったメンタルは、今聞くしかないと言ってる気がする。
「あの」
「ん?」
「私たちって、付き合ってるってことでいいんですか」
コップに口をつけたまま私が聞くと、白崎さんは一瞬動きを止めた。
「さっきのぼんやりしてたのってそれか?」
「うん」
後に何かを続けたら良かったとは思うけど、いつも通り手持ちはゼロだ。
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