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3回目のデート
ほんと臆病になったよ、俺は。
連れが席に立った間、俺はカウンター席で枝豆をつまみながら、背中越しに聞こえる男たちの会話に耳を傾けていた。
後ろに陣取る男たちは会社の健康診断がヤバいといいつつ飲んでいる。ああ、このグダグダした感じがたまらないんだよな。
ここの飲み屋は、個人経営だからチェーン店の居酒屋よりも客層が上だ。
三十六歳の俺がいても全く浮かない。
誘ったあの子には合わないと思うけれど、自分のフィールドで飲まなくては緊張して何も話せなくなるんだよ。情けないことに。
……あの子と会うのは、今夜で三回目か。
SNSのイベントで知り合って、名刺を渡したのがきっかけでふたりで飲むようになった。
そろそろ決めないとなあ……って、決めていいのか。十三歳も下の女の子に。
「お待たせしました。桐島さん」
彼女がやってきた。
ファンデーションを塗り直して、口紅を引いたな。異性の変化を察しても、俺はもうときめく年頃ではない。つまらない男になった。でも女としての身だしなみか、それとも俺を意識してのことかまではわからない。期待を込めて後者と受け取っておこう。
足はもつれていないけれど、彼女も相当飲んでいるはずだ。笑い上戸だからピッチが上がってしまうのかもしれない。そろそろセーブしてやらないと。
「もう飲まないだろ。烏龍茶にするか」
彼女がうなずいたのを確認してから、自分のビールといっしょにママにオーダーした。グラスがきても横にいる彼女の飲むペースはやけに遅かった。眠そうにしている。
「もう帰るか。疲れたろ」
「いやです。帰りません……」
俺は唾を飲み込んだ。
踏みこんでいいのか。おとなしそうな顔して誘うのがうまいな。
「せっかく出してもらったものは全部いただかなくちゃ帰れません……」
「ああ、そういう意味ね」
俺は息を吐いてビールを飲んだ。この子といっしょにいても色気のある雰囲気にならないんだよなあ。
今の若い子って、恋愛要素なく男女で飲めるのものなのか。おじさん、よくわからないよ。
俺は枝豆が乗っていた瑠璃色の皿を見つめた。
「オーロラってこんな色なのかな」
「え、オーロラですか」
彼女が聞き返してきた。いままでお酒を飲んでいたからか、頬が赤い。
「俺の夢はね、オーロラを見ることなんだ」
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