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相談
あの人なら、わかってくれる気がする。あの時、俺の背中を押す一言をくれた先生なら。きっと。
放課後、職員室に駆けつけた。
「椎名先生。あの、相談したいことが、あります……」
担任でもないのに、相談なんてしたら、迷惑だろうか。でも、もし先生に断られたら、誰に話せばいい?
担任の女性教諭に相談するのは、抵抗がある。困っている俺に、先生はあっさりと答えた。
「荒瀬か……。わかった。進路相談室へ行こうか」
「は、はい」
先生に連れられ、進路相談室へ向かう。席に着くなり、先生は口を開いた。
「久間の事か?」
「気づいてたんですか!?」
隠していた、つもりなのに。もしかして、花火大会の日の事を見られていた?
焦る俺に、先生は優しく答える。
「最近、一緒に居ることが減ったな、と。そう思っただけだよ。特に、意味はない」
「そう、ですか……」
どうしよう。先生になら、相談できる気がしたのに。不安が言葉を押さえ込んで、言い出せなくなる。
「無理に何かを話さなくても、いいよ。生徒と同じ時間を過ごす。それも、教師の仕事だからな」
「……はい。あの……先生、は」
「うん」
先生が、柔らかく微笑む。先生は、俺の悩みを知っているんじゃないか。そう思うくらい、辛抱強く、俺の話を待っていてくれる。
「あの、男の事を好きな、男……って。どう、思いますか……?」
「ああ、そうか。そうだな……」
先生は少しの間、無言になり、これは友人の話だが。そう前置きして、ゆっくりと話をしてくれた。
先生の友達に、恋愛対象が同性の人が居ること。たまに口喧嘩をするくらい、仲の良い友達だという事を。何一つ、隠すことなく。
でも、俺は。
「あの、俺は……。知られたく、ないです。そういうの……」
「『そういうの』とは?」
「……わかりません。ただ、今のままで、居たい。それだけです……」
自分が、男友達を好きになった。とは、言い出せなかった。ただ、ずっと、永遠に。今が続けば良いのに。それが、俺の願い。俺の想い。
先生は、フッと笑うと言った。
「そのまま、永遠に。なんて、ないよ。友達も、恋人も。そのままで居るのが、一番難しいんだ……」
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