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久し振り
待ち合わせ場所に着くと、有吾が待っていた。
「久し振り……」
ここで顔を会わせると、半年前の、あの日の事を思い出してしまう。有吾の手が、熱かったこと。グミみたいに弾力のある、夢吾の唇。
今日は、ちゃんと話し合わないといけないのに。どうして、そんな事を思い出してしまうんだろう。
「利人さ……。部活の前に、椎名先生と話してたよな。どんな事、話してたの?」
夢吾の真っ直ぐな視線に、つい目を背けてしまう。見つめ合ってしまったら、きっと。前みたいな事を期待してしまう。そんな自分が嫌で、素っ気なく答える。
「……別に、何でも良いだろ?」
椎名先生は、夢吾のクラス担任だ。それでも、教科担任の先生と話すのは、よくあること。
「じゃあさ。山東と親しくするのは、なんで?」
「それは……!」
それは、有吾の方だろう。そう、答えようとした時。
有吾の手が、強引に俺の体を引き寄せた。掴まれた腕に、あの懐かしい感触が、よみがえる。触れられた箇所が、まるで火傷のように、熱を帯びていく。
「それは、有吾の方だろう!」
俺は動揺して、力任せに有吾を突き飛ばした。高鳴る鼓動を押さえられない。「ごめん」と、有吾が顔を歪めて謝る。悪いのは、俺の方なのに。俺は、ただ、ちゃんと確かめたかった。言葉で、確認したい。それだけで、良かったのに。
「ちゃんと、話してくれよ。俺達は、何でも話せる、友達だろ?」
友達。それ以外の感情に振り回されているのは、俺の方なのに。
「友達なんかじゃない……」
有吾の言葉に、ショックを受ける。呆気にとられた俺を見て、有吾はクツクツと笑う。
「利人を友達だと思った事なんて、オレは、一度も無かった」
「……この野郎!!」
気がつくと、俺は。有吾の胸ぐらを掴み、殴っていた。恋愛感情を持つまでは。いや、持ってからだって。有吾の事を友達だと思ってきた。友達で居たいと、願った。だって、夢吾は、特別だから。
「利人は、ガキなんだよ!!」
有吾の拳が、頬を打つ。衝撃で、口の中を切った。口内に、錆び臭い鉄の味が広がる。
「痛っ。俺が、どんな思いで──」
「オレは……オレが! どんな気持ちで、走り続けてきたのか。利人。お前に、わかるか……?」
「有吾……」
有吾は、目に涙を溜めて、言葉を紡ぐ。
「……利人しか、見えなかった。オレは、利人しか、いらなかった。ずっと、ずっと、前から。子供の頃から、オレは……」
「そんなに、俺の事」
自分だけが、悩んでいると思っていた。自分だけが、こんなにも好きなんだと、思ってきた。有吾の事を。
「オレは、利人が、好きだ」
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