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──そのまま永遠に、なんてない。友達も恋人も──
永遠に続く関係が、無いのなら。言葉では足りない、この気持ちを今、伝えたい。有吾に。
口の中に広がる血を地面に吐き捨てる。まだ少し痛む傷口を舌で舐めて、無理やり止血すると。
湿った唇を有吾のそれと、重ねた。有吾の肩が、ピクリと跳ね上がる。そのまま、勢いに任せ、まだらに生え揃った雑草と土の上に、有吾の体を押し倒す。そして再び、唇を重ね合った。
高ぶる感情を夢吾の汗と土の混ざり合った匂いが、刺激する。有吾が欲しい。溢れ出す感情が、止まらなくなる。欲望に身を任せ、息をする間も惜しんで、何度も、何度も、唇を押し当て、体温よりも温かい舌を絡ませ合う。再び溢れだした血が液体となって、有吾と俺の口許に、ベッタリと張り付く。有吾の唇が、まるで自分の一部みたいだ。柔らかく、溶け合うように、二人の唇は、交じり合う。
「好きだ。俺は、有吾が好きだ」
「うん。……うん」
有吾の手のひらが、俺の首筋を這っていく。その手は痺れるように熱く、理性がぶっ飛びそうになる。
触れたい。触れ合いたい。有吾の体が溶けて、自分の一部になれば良いのに……。
そっと、有吾の顔を撫でる。そして、泣き出してしまいそうな有吾の目元に、力強く口付けをした。まるで、自分の欲求を押し殺すみたいに。今やめないと、自分の理性を保てなくなる。そんな気がして、夢吾から自分の体を引き離した。
息が苦しい。四百メートルを全力疾走したって、こんなに呼吸は荒くならないのに。
ゼエゼエと、肩で息をする俺を見ても、隣に横たわる有吾は、何も言わない。かわりに、顔をくしゃくしゃにして微笑むと、両手で顔を覆った。
「どうした? 有吾……」
どこか、痛むのだろうか。心配して近づいてみると、腹に蹴りを入れられた。
「来んなよ。恥ずかしいから」
「……なんだよ……」
なんだよ。俺達、変わらないじゃん。お互いを好きでも。殴りあって、唇を重ね合っても。
そっと、微熱の残る唇を指で、なぞる。有吾が欲しい。今、その欲求は、鳴りを潜めている。その事に、心の底から安堵した。
きっと、どちらかを選ぼうとするから、苦しいんだと思う。俺達は、俺達で良い。本音を言い合える友達で。お互いを好きで。それが、本当の意味での自然体なんだと思う。
大きく伸びをしてから、隣に寝転がる。今度こそ、将来の夢について、話せる気がしたから。大切な、友達として。
「あのさ。俺、将来、美容師になりたいんだ」
「……美容師? 利人が? えー。不器用なクセにー」
「なんだよ! 去年の花火大会。佐和の髪だって、俺が結んだんだぞ?」
有吾は、へえーと、呟く。
「花火大会の佐和、可愛かったな」
「まあなー。佐和は、俺の妹だからさ」
「……利人ってさ。結構、シスコンだよな?」
「はぁ?」
そんなやり取りに、有吾は腹を抱えて笑いだす。こいつ、こんなに笑うんだ……。
今のままを望むのに。ふとした瞬間、押さえようのない、愛しさが込み上がる。
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