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唇に残った微熱が、心に火をつけてしまいそうで。俺は急に、怖くなった。
「どうした?」
隣を見ると、笑い終わった有吾が、いつもの笑みを浮かべている。もう一度、触れ合ってしまったら。きっと、自分では止められない。
何でもないと首を振り、気持ちを覆い隠すために、山東の話をする。有吾は遠くを眺めて、うん、うんと頷いた。
「……そういう事、だったんだ」
「有吾はさ。どう思う?」
本当に、山東は『秘密』を守るんだろうか?
「利人は、どうしたいの? オレは……別に。誰に何を言われても、気にしないよ」
「何、言ってんだよ!?」
俺は慌てた。有吾が、男子陸上部のエースが。男を好きだ、なんて。そんな事、誰にも知られては、いけない。
「何言ってんだろうねー。でもさ。オレが走るのは、利人が居たからだし……」
「俺が?」
俺の実力では、有吾の足元にも及ばないのに。
「利人の事で、頭がいっぱいな時。走る事だけが、オレの支えだった。走っている時だけは、利人を忘れられた」
「有吾……」
有吾が陸上を始めたのは、小学五年生の時。そんなに前から、有吾は俺を……。
バチンと、自分の頬を叩く。こんな一時の熱に浮かされて、どうする。有吾の気持ちに、ちゃんと向き合う。それが、今の俺が取るべき行動だ。大丈夫。有吾は、ずっと近くに居るんだから。
有吾は「変なやつ」なんて、笑うけど。お前の笑顔が、可愛いから悪いんだよ。そう、心の中だけで、呟いておいた。
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