1 鬼

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1 鬼

司会 「ではトップバッターはなんと鬼です。それでは鬼さんどうぞ」 鬼 「やっと100年経ったな。言いたいことがいろいろたまってるわい」 司会 「はい、鬼さんそれでは率直に忌憚のない意見を言ってください。いったいどのことわざが気に入らないんですか?」 鬼 「知れたことよ。『鬼のいぬ間に洗濯』だ」 司会 「なるほど、一般には『鬼さんのような怖い存在がいない間に、やりたいことをやっておけ』と言う意味ですが、このことわざに何かご不満でもあるんですか?」 鬼 「我々、鬼がことわざに使われるのは別にかまわん。いや、これはむしろ光栄といってもいいだろう」 司会 「ありがとうございます。ではなぜ今回の提訴に敢えて踏み切ったのですか?」 鬼 「知れたことよ。どうにも最後の『洗濯』が気に食わないんじや」 司会 「え?洗濯・・・ですか?別にいいじゃないですか。鬼さんがいない間にやりたかった洗濯をさっさとやってしまおうと言う意味でしょ?」 鬼 「そこなんだ問題は。せっかく怖いワシがいないんだぞ。滅多にない貴重な時間なんだぞ。そんな大切な時間にたかだか洗濯みたいな地味な作業をやると言うしみったれた性根が気に食わないんだ」 司会 「はあ・・・」 鬼 「わからんか?」 司会 「正直、まだ話が見えません」 鬼 「仕方ないな、説明しよう。いいか!せっかく、怖いワシがいないんだからハイジャックやハッキングとか銀行強盗とかもっとスケールのでかいことをやって欲しいんだ」 司会 「なんとなくわかってきました」 鬼 「しかもだ、このことわざは逆に言えば洗濯ごときの細かいことをワシがいちいち怒るようなスケールの小さい人間に思われる危険性をはらんでいる。これだけは全くもって不愉快だ」 司会 「なるほど、お怒りはよくわかりました。それでは金田一先生いかがですか?」 金田一 「うん、たしかに鬼さんの言うことは一理ありますね。せっかくあの怖い鬼さんがいないのに洗濯なんてやるなんて確かに勿体ないし無駄ですよね」 鬼 「おお!わかってくれるか!」 金田一 「しかも今の世の中は時代は変わりまして、電気自動洗濯機が出てきたので鬼さんがいようといまいが自動で洗濯ができてしまいますし、場合によっては高性能の洗濯機なら乾燥までできますね。確かにこれは変更の余地ありです」 司会 「じゃあ鬼さん、提訴を受け入れるとして代わりの言葉は何がいいですか?」 鬼 「そうじゃなぁ・・・やはりどうせ代えるならスケールのでかいことがいいな。核戦争あたりはどうだ?ゴロもいいと思うが」 司会 「では『鬼の居ぬ間に核戦争』が希望ですね。わざわざゴロのことまで考えていただきありがとうございます。金田一先生いかがでしょうか?」 金田一 「それでいきましょう。洗濯よりははるかにスケールがでかいし、何よりも鬼さん自体の価値が上がりますよね」 鬼 「わかってくれるか!100年間待った甲斐があったわい」 司会 「はい。じゃあ決定と言うことで。おめでとうございます」 鬼 「ありがとうな、スッキリした!また100年後に会おう」65c2717c-8f46-45af-996d-8f90e5903e15
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