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4 馬
金田一
「はい、お次は誰かな?」
司会
「はい、馬ですね。何やら鼻息が荒いですよ。では馬さんよろしくお願いします」
馬
「ブルルル、今日は言わせてもらうぞ」
司会
「はい、馬さん何やら気合が入っていますが今日は何を提訴しますか?」
馬
「明日から『馬の耳に念仏』を変えて欲しい」
司会
「一般に『価値あるものを価値をわからないモノにあげても無駄だ』と言うことわざですね」
馬
「ああ、そうだ。どう考えてもこれは我々馬が価値のわからない生き物の代表になっているよな」
司会
「まあ、そうなりますが」
馬
「全くもって心外だ!」
司会
「え?ということは馬さんは坊主が唱える念仏の意味が分かるのですか」
馬
「いいか、俺たち馬は長い間人間の乗り物の位置づけを果たしてきた。しかも日本に仏教が伝来してからすでに1500年近い時間が経とうとしてるんだぞ」
司会
「はいおっしゃる意味はわかりますがそれと今回の提訴とどういう関係があるんですか?」
馬
「我々馬が最も活躍したのは戦国時代の戦いの日々であった。戦は常に武士が我々に乗って相手方と戦った歴史を知らないわけではあるまい」
司会
「はい、武田信玄の騎馬部隊は有名ですからね」
馬
「そこまで知ってるんだったら話は早い。戦場では常に武士の戦死者が出るのをわれわれは見てきた。もちろん一心同体とされていた我々馬もかなり死んだ」
司会
「は、はあ・・・まだ話が見えて来ませんが」
馬
「戦いが終わると戦死した武士を弔うために必ず大勢の僧侶が来て念仏を唱えるのをわれわれは常に傍で見てきた。また我々死んだ馬にも僧侶たちは敬意を表して念仏を唱えたことさえもある」
司会
「すると馬さんの主張はありがたい念仏が分かると言うことですか?」
馬
「当たり前だ!何百年もこのような状況が続いたら嫌でもわかるようになる」
司会
「そ、それは大変だ。もしそれが本当だったらこのことわざは早速見直さなければならない。金田一先生よろしくお願いします」
金田一
「この話が本当なら正直、馬さんには済まないことを長年してきたと思いますね。ところで馬さんはどれぐらい念仏の内容を理解されてるんですか?」
馬
「当然人間界の言葉だから詳しい内容はわからないが、本質であるところの生命の死を尊重し安らかに死後の世界に旅立つようにと言う意味は理解しているつもりだ」
金田一
「そうですか。そこまで理解されているんですか!ひょっとしたら恥ずかしいことですが、今の人間の若い世代よりもよく念仏を理解しているかもしれませんね」
馬
「もっと言わせてもらうと同じ意味を伝えることわざに『豚に真珠』というのがあるだろう。ここには豚がいないようだから言わせてもらうが『馬の耳に念仏』と同次元で語られると憤りを覚えることを理解してほしい」
司会
「という事は馬さんはことわざそのものの消去を提訴したいわけですね」
馬
「いや長年多くの人に親しまれてきた言葉だ。消去するのは惜しいような気はするので意味の見直しを提訴したい」
金田一
「それではこうしましょう。今後我々人間は『馬の耳に念仏』と言うことわざを使う場合は『最初は難しいことも何百年と長い時間をかけると理解できるようになる』と言う事の例えにしましょう。それでいかがでしょうか」
馬
「おお、それはいい!」
司会
「ナイスアイデアですね!馬さんこれで納得されましたか?」
馬
「おう、ありがとう!今から走り回りたい気分だ!」
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