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真実を聞かされ、私はしばらくの間、放心状態が続いた。
それでも悔しさを顔に滲ませながら、右手の手は勝手に左手首に移動を始めていた。
この男から貰った、偽の指輪を返すために……
ところが、雅司はそれを阻止せんと近づき、私の手を掴んだ。
但し、その手はまったく優しさがこもってなく、逆に憎しみと怒りを強く感じた。
「別に返さなくていい」
「えっ?」
「迷惑料さ。これで警察に駆け込まれたらかなわんからな。まぁ最も、お金は騙し取ってないから詐欺罪にはならないがな」
再び、雅司は私を嘲笑った。
「それにこれは施しだよ。この指輪を売って、生活の足しにでもするがいい。それとも、お前には薬代のほうがいいのかな?」
もう限界だった。
私の右手が勝手に上を挙げた。
ところが、そのまま動く事ができなかった。
結局、彼を叩くのをやめ、ゆっくりと右腕を下ろした。
「酷いやつ」
私は叩く代わりに、吐き台詞をこの男に言った。
悔しさと怒りが顔に込み上げてきたが、声はとても弱々しかった。
だが、雅司はそんな事は屁でもない様子ですぐに私に言い返した。
「それはお互い様だろ?」
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