癒しと混乱の美人の湯

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目が覚めたら空港だった。 「へ? あれ?」 キョロキョロしていると、 「直行便を予約した。後20分で離陸だ」 おそるべきことを言われ、ポンとチケットを渡される。 「ちょ、ちょっと間ってよ。美百合は?」 慌てるさくらに、龍一はものすごく気に入らない顔でチラリと目配せする。 さくらのすぐ隣のシートで、美百合が健やかな寝息をたてていた。 「……あんた、自分の奥さんまで眠らせるの?」 「合意の上だ」 「合意たって……」 いくら旅館の場所を知られたくないからといって、美百合にまで睡眠薬を盛るなんてあんまりだ。 それで、 「いつか美百合に嫌われたって知らないわよ」 そう言ってやると、目に見えて龍一はしょげかえった。 肩を落としてしょんぼりしている。 「……」 やっぱり龍一の仏頂面を崩せるのは美百合だけなのだ。 普段の龍一とのギャップにこっそり笑っていると、 「一度しか言わないから記憶しろ」 いきなり言われて、ピッと緊張する。 そして龍一は、まくし立てるように、世界に名だたるセレブの名前を羅列した。 「……へ?」 「まさか覚えられないのか?」 心底信じられないといった顔をするので、 「失礼ね、なんでいきなりそんなミーハーな名前をあげるのかとびっくりしただけよ」 別に覚えなくても、誰でも知っている有名人の名前だ。 芸能人、スポーツプレイヤー、モデル……。 全員、第一線で活躍している超有名人たちだ。 「知っているようだな」 龍一の言い方にムカッとして、 「知らないわけないでしょ」 言い返すと、 「彼らは全員、夕べの旅館の顧客だ。プライベート写真が欲しければ、いつでも手に入る」 「え?」 「カメラマンだろう」
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