癒しと混乱の美人の湯

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「君が理解できない」 有坂龍一は電話口で1音1音言葉を切りながら、きっぱりと言い切った。 「その必要性をまったく、これっぽっちも、微塵も、俺は感じない。だから無駄だ」 丁寧に三度にもわたって否定してくれる男に、 「だから、なんでなのよ?」 立花さくらは激高し牙を剥く。 「美百合の気分転換に温泉に連れて行きたいっていうのの、どこが無駄だっていうの」 「すべてだ」 なんの迷いもなくすっぱりと言い捨てる龍一に、 「もぉっ、頭の固い男ね」 さくらはジタバタと喚く。 「最初から知ってたけど、知ってる以上だわ」 すると、 「もういいか? 切るぞ」 龍一の素っ気ない声。 「待ってよ! 美百合と話をさせて」 そもそも電話をかけたのは美百合の番号のはずである。 なのに出たのは夫の龍一。 この家にプライバシーというものは存在していないのだろうか。 それでも龍一が強引に電話を切ろうとする気配が伝わってきたので、 「いいの? 私、何度もかけ続けるわよ」 さくらは声を張り上げる。 「いつか美百合に繋がったとき、勝手に電話を切ったことバラすわよ」 「チッ」 あからさまにイヤそうな龍一の舌打ちする音。 「こいつ……」 美百合の夫の龍一は、顔は最高のクセに性格は最悪の男だ。
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