オカマの社長

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 僕は子供の頃から好きだったスポーツカーを唯一の友とする孤独でしがないイラストレーター。それで若い頃から国産の低年式で多走行の安物中古スポーツカーを乗り継いで来たのだが、三十二歳の時にこんな虚しい人生だからせめて車だけは好いのを手に入れたいと思い、自暴自棄になって母が僕の為に掛けてくれていた養老保険の金を全部下ろし、それを頭金にして高年式で低走行の中古ながら結構高価なアルファロメオGTVを月賦で買ってしまってから程度はそれなりに良い個体だったものの、そこはそれイタ車である、故障が多く修理屋に何度も修理を頼まなければならなくなった。  その修理屋というのはイタリア車を主に修理販売する店だったのだが、僕は店に通う内にそこの整備士兼社長と親しくなれたのが不幸中の幸いだった。無論、その背景にはお互いの打算というものが有って所詮、僕は社長の金蔓であり、社長が自分にとって愛車を修理してくれたりチューンアップしてくれたりドレスアップしてくれたりする便宜な存在であるから付き合えていた様なものだった。それにしたって人付き合いがお世辞にも巧いとは言えない僕が社長と何故、巧く付き合えたのかと言うと、社長は僕より二十も年上という事もあり権兵衛さんの様な親しみ易い風貌をしていて、それでいて髪型がスーパーカーブームが有った七十年代の流行り其の儘の風変わりな年に似合わぬ長髪で、而も女言葉を使い口調も御釜バーのホストの様な色気が漂うユーモラスな喋り方で、印象が変わり者その物であったので脱俗を衒う僕にとっては洒脱な感じがして親しみ易く話し易かったのである。
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