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むしゃむしゃ
雨がふってきたので、ひらいたら、知らない紅い和傘だった。
なぜ、取りちがえに気づかなかったのだろう。持ち手部分からして、ぼくの傘とはまったくことなる。
取りちがえの場となった、和菓子屋へ引き返そうかと考えて、やめた。
にわかに腹が空いてきた。ようやく買った豆大福、このまま食べてしまおう。歩きながら袋から取り出そうとする。
「人間のものなど、お前には毒だ。食べてはいけない」
声が降った。
上からかぶさって、視界がさまたげられて、天が暗くなる。
「あっ」
足元に、袋が落ちた。
路上に一本の、閉じた紅い和傘が落ちている。
傘のひだのうちから、一匹の碧色の蛇が這い出て、どこかへ消えた。
つづいてそこから黒いかぼそい手が伸びて、豆大福の袋を引きずりこんだ。
通りには誰もいない。咀嚼の音を聞く者もなかった。
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