25人が本棚に入れています
本棚に追加
改札を出ると、吹きつける北風に身が縮んだ。ジャケットのファスナーを襟元まで上げて、駅前の交差点に立つ。
どことなく、道行く人々の足が急いて見える夕暮れ時。
ふと目に留まったのは、向かい側にある暖色の照明を灯したコンビニ。
信号が変わると、いつの間にかそこへ足が向いていた。
疲労した体が高カロリー食品を求めてくるから、選んだのはチョコレート。
どこの店でも見かける、普通の板チョコ。
久しぶりに手にとったそれは、変わらぬ装いと軽さで僕に挨拶をした。
ひとけのない、川沿いの一本道が帰宅路。
出迎えた寒風に無愛想を返しながら、買ったチョコをポケットから取り出す。
銀の包みを剥がすのが下手なのは昔と同じ。
思わず苦笑したけれど、子供の頃はそんなこと気にしなかったよね。
ポリポリとかじりながら歩く。
舌に伝わる甘さが懐かしい。
これが一番好きな味だった日は、いつでもたくさん食べられる贅沢を夢見ていたっけ。
つい頬を緩めたら、何だか足取りまで軽くなったみたい。
子供の頃の自分が、知ることのなかったこの瞬間。
少しだけ、大人の自由を感じた。
最初のコメントを投稿しよう!