秋風たなびくアイス日和

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 それから数日、あの時見た長崎さんの顔が頭から離れなかった。皆は相変わらず先生にお熱だったけれど、元々自分はああいうことには疎い。それよりかは長崎さんの方がずっと気になった。  あの時、結局保健室には入らなかった。自分のケガのことなんかすっかり頭から抜けていた。 「え、保健室行ってきたんじゃないの!?手当は!?」  教室に戻ると友達にビックリされた。  長崎さんはもう教室に戻っていた。さっき見た人とはまるで別人のように爽やかな顔をして読書をしている。 「ねえねえ、長崎さん。今日の予習やった?少し分からないところがあって教えてほしいなって」  クラスメイトの一人が長崎さんに話しかていた。本から顔を上げた横顔はさっきの可愛らしい顔とはやはり別人のように見える。  別に本人に問いただそうとか、先生に質問してみようとは思わなかった。  ただ、そういえば長崎さんとはあまり話したことがないなと思い立つ。別に友達がいないわけではないが、長崎さんは1人でいることが多い。皆の憧れのような雰囲気で特定のよくおしゃべりしている人、というのは見たことがなかった。 「何の本読んでるの?」  きっかけなんてそんなものでいいはずだ。それなのに、いざ話しかけてみようとするとなんだか変に緊張してしまって上手くいかない。もやもやしながら過ごしていると、食堂で売っているアイスが目に飛び込んできた。 「これだ!」  あの時、冬でも食べるくらいアイスが好きだと言っていた。もしかしたら寒い教室で好物食べる人がいれば目につくかもしれない。仲良くなる良いきっかけなのではないか。 「これ下さい!」  気づけば長崎さんが食べていたのと同じものを、迷うことなくレジに持って言った。1口サイズの丸くてたくさん入ってる、かわいいやつを。                ***
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