秋風たなびくアイス日和

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「よくこんな寒い中食べれるね」  隣に座る友達が呆れながら言う。  木々が色づく今日この頃。最近のマイブームはこれ、アイスだ。 「信じられない。見てるだけで寒いよ」 「えー美味しいのに」  アイスより冷たい友達の視線を受けつつ、コロンとアイスを頬張る。  アイスならなんでも言い訳じゃない。一口サイズの丸くてたくさん入ってるかわいいやつ。これでなければ意味がない。  教室の半分より少し後ろあたり、ドアのすぐ近く。こうして毎日同じ場所に座り、同じアイスを食べるのが習慣になっていた。 「お一つどう?」 「遠慮しまーす」  友達に差し出したアイスを渋々戻し、もう一つ食べる。  ひんやりとした温度が芯から体を冷やす。 寒い  やっぱりアイスは夏の食べ物だとつくづく感じる。ケチで未だに暖房がつかないきの教室では外と大して気温が変わらない。短くした制服のスカートからも寒さがぞわぞわと上がってくる。温かいココアでも買ってこようかと気持ちが揺れた。 いや、あと少しの我慢だ もうちょっと、もうちょっと  ドアの方に視線をやると綺麗な黒髪に整った顔立ちの女の子が入ってくるのが見えた。 来た 「あ、長崎さんだ」  友達の言葉で体中にピリリと緊張が走る。 今日こそ、話しかける   肌寒いこの季節に無理やりアイスを食べる理由が、今日も登校してきた。相変わらず好きのなさそうな完璧な容姿。制服はシワ一つなくピシッと着こなし、髪はお人形かと思うくらいキレイに梳かされ、イギリスの血が入った顔は思わず二度見してしまうほど美しい。 「おはよう」  天使のような微笑みをクラスメイトに振りまきながらながら、二人の前を通り過ぎていく。 何か言うんだ、今日こそ  心の奥底が叫ぶのが聞こえる。同時に体は強ばり言うことを聞かなくなる。いっつもこうだ。長崎さんが来るとさっきまでせわしなく働いていた口が途端に仕事をやめてしまう。  構わず長崎さんは目の前を通りすぎようとしている。 ああ、このままじゃまた、アイスを食べる意味が……               ***
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