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彼女が1番サビを歌い終わった所で、僕は無意識にアコースティックギターをかき鳴らし始めていた。駄目だな、こうなると僕何も見えなくなるんだよ。
君の世界を音にする。
それはきっとこんな風に荒々しくて繊細で、どうしようもない程に人間らしく泥臭い音だ。
振り返っていた彼女と視線が交わった。目を点にして、ぽかんと口を開けている。
馬鹿、ボサっとしてる暇はないよ。
「One!Two!1234!」
僕のカウントに彼女は弾かれたように、2番を叫び出した。もしかしたら全然違う曲だったのかもしれない。でもなぜだろう、君とは初めてセッションした気にならない。
音が加速する。
闇を突き抜けて、もしかしたらあの星や、その向こうの月まで届きそうな感覚。
一瞬の武者震い。
彼女の最後の叫びが僕をまっすぐ貫き、僕は余韻を残さず手のひらで弦を叩き消音した。
2人の激しい息遣いだけが、その場に残った。
「はぁ、はぁ……すっ凄い!!」
彼女は肩で大きく息をして、ただでさえ大きな丸い瞳をくりくりと大きく見開いていた。慌てて駆け寄って僕の肩を掴むと、衝動に任せて前後に揺さぶる。
その時僕は初めて自分がスタンディングで演奏していたことを知った。
「あなたプロなの?! 凄い凄い! 学校のギターがこんなにたくさん音を持ってるなんて知らなかった! 夢みたい!」
「僕は……凄くなんかない」
「え?! ごめん、何て言ってるか分かんない! なんで顔隠してるの? ちゃんと見せてよ!」
顔を隠していた僕の長い前髪に彼女の細い指が触れる。目があってすぐに、上気した彼女の頬からスッと熱が引いていくのが分かった。
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