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「なんで、泣いてるの?」
「分からない」
「ごめんなさい、私のせい? 弾きたくなかったのに無理矢理させたから」
「もの凄く今更で、自分勝手な言い草ですね」
「ごめん、なさい……」
彼女の指が引かれ、また僕の視界を前髪が奪う。今彼女がどんな顔をしているのか分からないけれど、見えなくてよかったと心から思った。
「泣くほど、嫌な曲だった?」
「君の歌は果てしなく真っ直ぐで、正直で、裏表なく、素直にかっこよかったよ」
「ほんと? 実は私、この曲を全国高校生作詞作曲コンクールに出そうと思ってて!」
ズキっと胸の奥が軋む。聞き間違いかと彼女の目を見返した。でもどうやら間違いじゃないらしい。彼女の瞳はキラキラと輝きを取り戻していた。
「Sakura. ってバンド知ってる? 知ってるよね。ギターやってたらみんな知ってるはず。そこのボーカル&ギターのサクラって人、このコンクールで過去に断トツで優勝してるの。私、彼みたいになりたくていっぱい曲を書いてきた。最近はちょっと……変わっちゃった気がするけど、昔の彼の曲はいつだってかっこいい、ロックンロールの真髄だった! 私、サクラみたいになりたくて音楽を始めたの!」
もしロックンロールの神様がいて、何か意図があって今彼女に僕を引き合わせたのだとしたら、僕の使命はたった一つだ。
「あなたみたいなギターの上手い人に褒められたら、なんだか自信が出てきちゃった! 私もう一回この曲書き直して、コンクールに出っ」
「勘違いしない方がいい」
「え?」
ギターを地面に置く。弾いたのが学校の備品でよかった。きっとすぐに忘れられる。
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